【FILMeX】カミング・ホーム・アゲイン(特別招待作品)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

作品紹介

韓国系アメリカ人の作家が大晦日のパーティーに備えて母親から韓国料理のレシピを教わる。そして彼の脳裏に人生における幾つかの瞬間がよみがえる……。在米アジア人の家族を何度も描いてきたウェイン・ワンの新たな傑作。トロント映画祭で上映。(公式サイトより)

クロスレビュー

藤澤貞彦/母親への幻想度:★★★☆☆

余命いくばくもない母の介護をする息子。仕事を辞めて家に籠りかいがいしく介護する姿は、完璧すぎるほどで、よくそこまでと感心していたのだが、骨付きカルビの骨が喉に引っ掛かったような感覚が、付きまとって離れない。無神論者だからといって、キリスト教に救いを求めた母親をあんなに突き放せるだろうか。彼女の荷物整理をする時に、彼女の思いがこもった物(特にマリア像)を簡単に処分することができるのだろうかと。年末を過ごすため帰郷した姉が母親に新しい治療をするよう説得できずに泣き崩れるのだが、既に食べ物を受け付けなくなった母に、ごちそうを食べさせようとしてうまくいかなかった彼の怒りとそれは何の違いがあるのか。子供は、両親の関係をその歴史も含めて完全には理解することができないし、母への強い愛情も、親への幻想の上に成り立ったものにすぎないのだろう。母の料理の味を受け継ごうとする息子だが、同じものはできないのである。所詮人は最期はひとり。そんな孤独が身に染みる、ある意味怖い映画であった。

外山香織/答えを求めてはいけない度:★★★★★

家族のために作る料理、食卓を囲むシーンとなるとどこか温かいイメージがあるが、その先入観念が裏切られる作品であった。息子は末期がんを患う母親のために仕事を辞め、家に帰ってきた。一見、甲斐甲斐しく世話をしているように見える。しかし、それは母のためなのか、自分が後悔しないためなのか曖昧だ。母から聞いたレシピで料理を作るものの、抗がん剤に苦しむ当の本人は満足に食べることができない。料理シーンはたくさん出てくるが、おいしそうに食べるシーンはほとんど出てこないのも意図を感じる。本人の意志に沿わない延命治療を説得する姉もまた主人公と重なる。無論、死に際する行動に正解はないだろう。母親もまた、故郷を離れてアメリカで生きていく息子のために寄宿学校に通わせたことを『余命が短いと知っていたら行かせなかった』と悔やむ。何が正しかったのかは誰もわからない。「答え」を出す映画ではない、ということなのだろう。


▼第20回東京フィルメックス▼
期間:2019年11月23日(土)〜12月1日(日)
【メイン会場】有楽町朝日ホール(有楽町マリオン)11/23(土)〜12/1(日)
【レイトショー会場】TOHOシネマズ日比谷11/23(土)〜12/1(日)
【映画の時間プラス会場】ヒューマントラストシネマ有楽町 (11/23(土)のみ)
主催:認定NPO法人東京フィルメックス
共催:朝日新聞社
公式サイト https://filmex.jp/2019/

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