【TIFF】山崎バニラの活弁小絵巻2019(TIFFチルドレン)

令和の活弁ブーム到来⁉『動物オリンピック大会』『初陣ハリー』

 いい映画を若いうちから観てもらいたい、早いうちから映画をスクリーンで観る楽しさを知ってもらいたい、という素敵なコンセプトで始まったTIFFチルドレンは、今回で3回目を迎えた。今年は、昨年好評だった活動弁士・山崎バニラさんが再び登場。魅力的な企画のため、大人の映画ファンも沢山あつまってしまうTIFFチルドレンなのだが、今年は昨年より子供の姿も増え、会場は他の東京国際映画祭のプログラムとは、ひと味違った雰囲気になっている。また今年は、周防正行監督最新作『カツベン!』が東京国際映画祭で華々しくスクリーニング上映されたこともあり、そこから流れてきた観客の方たちも加わって、会場は熱気に包まれていた。

 プロミラング・ディレクターの矢田部吉彦さんの紹介で、山崎バニラさんが登場。今年の映画祭ポスターと着物が見事にフィットしていて、とても素敵だ。タイトルがいつもの「活弁大絵巻」ではなく、「活弁小絵巻」というところもミソ。観客との近さがここの魅力でもある。

『活弁ことはじめ』(2019年)

 最初に上映されたのは『活弁ことはじめ』。バニラファンの方の中には、あれっ、『活動写真いまむかし』じゃないのって、思った人もいたかも。
「今年は12月13日に周防正行監督最新作『カツベン!』が公開されます。我々現役弁士もちらりと登場しております。それに先立ちまして周防監督はキャンペーンで全国47都道府県に赴かれました。その際、私の自作動画『活動写真いまむかし』を、『活弁ことはじめ』としてアルタミラピクチャーズさんとともに再編集した映像を、活弁や無声映画のオリエンテーションとして、各地で上映していただきました」

山崎バニラさんご自身で描かれたイラストと、自作の音楽で作られたこの作品は、リュミエール兄弟によるシネマトグラフから始まる映画の起源や、日本における活弁の歴史がわかりやすく説明されていて、活動弁士をまったく知らない人でもたちまち通になれそうなほど。『カツベン!』の上映前に観れば、映画の世界にすぐに入り込めることだろう。

『動物オリンピック大会』(1928・1932年)

監督:村田安司

(c)おもちゃ映画ミュージアム所蔵

作品紹介
こちらは、劇場で公開されたフィルムがおもちゃ映画として切り売りされていたものを京都のおもちゃ映画ミュージアムに再編集したもので、1932年、昭和7年封切り、『動物運動会』と1928年、昭和3年封切りの『動物オリンピック大会』を合わせたもの。切り紙アニメの名手と呼ばれた村田安司さんの作品である。

 「この2本を作ったのは、切り紙アニメの名手と呼ばれた村田安司さんです。当時はまだアニメーターという職業が確立されておらず、皆、アメリカのアニメを見よう見まねで作っていました。その中でも村田さんは、切り紙を何枚も作り、背景の上に載せてちょっとずつずらすという、気が遠くなるような作業でアニメを作りました。しかし当時としては大変画期的、効率的な手法です。『動物オリンピック大会』が封切られた1928年といえば、オリンピックのアムステルダム大会で人見絹枝さんが日本女性初のメダルを獲得した年です。『動物運動会』が封切られた1932年といえば、ロサンゼルス大会で男子水泳が6種目中5種目で金メダルをとった年でしたので、漫画映画制作にもきっと影響を与えたことと思います」

 猿が鉄棒をしたり、カバが飛び込み台からプールに飛び込んだり、とても楽しい作品。登場した時、区別がつきにくい虎とライオンの剣道の試合では、「タテガミがはみ出している右がライオン、シマシマのしっぽが見えている左がトラ」と、バニラさんの“あまりにもわかりやすい解説”がつくのも楽しい。大正琴、笛、拍子木、太鼓を使い、音楽だけではなく、効果音も巧みに使われていて、無声映画であることを完全に忘れてしまう。動物たちの可笑しくも可愛らしい動きと、絶妙な効果音に、観客席の小さなお子さんの笑い声が止まらなくなってしまった。

『初陣ハリー』(26年)

監督: ハリー・エドワーズ
出演: ハリー・ラングドン、ジョーン・クロフォード

(c)喜劇映画研究会所蔵

作品紹介
本作は、喜劇映画研究会によるデジタル化によって、若き日のジョーン・クロフォードの美貌もくっきり、画像がより鮮明になっている。
借金のため、風前の灯となった貧乏靴店の倅ハリー・ローガンは、ひょんなことからバートン製靴会社の大陸横断徒歩競争に出場することとなる。第1着の選手には2万5000ドルの賞金が出るというまたとないチャンスだったのだが、当のハリーは、バートン製靴会社のポスターの美女にすっかり夢中になってしまうのだった。

 「本作のオリジナルのタイトルは『Tramp, Tramp, Tramp』というアメリカの行進曲で、途中字幕に歌詞も出てきますので、ピアノの弾き語りがいがあります。製作・主演のハリー・ラングドンは三大喜劇王チャップリン・キートン・ロイドを凌駕するほどの人気コメディアンでした。ほんわか癒し系で、特に女性に人気があったそうです。そして後にアカデミー賞主演女優賞を獲得するジョーン・クロフォードのヒロインデビュー作でもあります。さらには、後にアカデミー監督賞を3度も受賞するフランク・キャプラが台本に参加しています。ハリー・ラングドンのキャラクターもフランク・キャプラによって生み出されたということです。当時はまだテレビがありませんでしたので、ニュースは映画館で観ていました。当時のアメリカの活動写真館の様子もご覧いただけて、見どころ満載です」

 1864年に発表された『Tramp, Tramp, Tramp』のピアノによる弾き語りから始まり、バートン靴店のテーマ、ハリーの靴店のテーマ、ジョーン・クロフォード嬢のテーマなど、それぞれに曲が割り振られていて、ノリがとてもよい。また、バニラさんは、ハリー・ラングドンの性格をきちんと掴み取り、いかにも彼が言いそうなセリフを当てるだけではなく、そこにツッコミも入れるという二重の仕掛けで、楽しませてくれる。ハリー・ラングドンの作品自体は、チャップリン、キートン、ロイドと比べると、時々緩いシーンが続いてしまうこともあるのだが、そこは流石のバニラさん「くどい、くどすぎる、くどすぎて、弁士も困っているじゃないかぁ」という、まさかのツッコミで、決して退屈させることはない。観客席からは、絶えまなく笑いが起こり、最後には大きな拍手が贈られた。

 「映画『カツベン!』のほうでは、エンディングに奥田民生さんが歌う東京節の替え歌『カツベン節』が使われています。本日はその原曲、ジョージア行進曲をたくさん散りばめてみました。これから令和ならではの活弁ブームが来そうな予感がしております。ぜひ生の活弁のほうも、今後ともどうぞよろしくお願いします。本日はまことにありがとうございました」

 ヒネリの効いたツッコミで大人の観客を楽しませつつ、かつ小さなお子さんまでもが笑い転げられる山崎バニラさんの活弁付サイレント映画。そういう意味では、「早いうちから映画をスクリーンで観る楽しさを知ってもらいたい」というTIFFチルドレンの目的は、十分に達せられたと言えるだろう。ここに参加した子供たちが、これを良い思い出として将来映画ファンに育っていってくれることを、また来年以降もますますこの試みが広がっていくことを期待して、劇場を後にした。

※周防正行監督最新作 映画『カツベン!』12月13日ロードショー
詳細情報は、公式サイトhttp://www.katsuben.jp/にて。

午前10時30分の無声映画祭(映画「カツベン!公開記念」)

2019年11月26日から毎週火曜日12月10日まで

山崎バニラさん出演日
2019年11月26日(火)10:30開演(10:10開場)
■演目:『活弁ことはじめ』『ロイドの要心無用』
■会場:渋谷TOEI
■料金:2,000円
■主催:東映
■協力:株式会社マツダ映画社
■お問合せ先:渋谷TOEI TEL:03-5467-5773
渋谷TOEI オンライン予約
https://toeitheaters.com/theaters/shibuya/
※劇場TOPページよりスケジュール選択の先行販売スケジュールをクリックしていただくと活弁公演の日程に飛びます

山崎バニラ(やまざき ばにら)プロフィール

(活動写真弁士)
2001年、無声映画シアターレストラン「東京キネマ倶楽部」座付き弁士としてデビュー。“ヘリウムボイス”と呼ぶ独特の声と、大正琴とピアノを弾き語る独自の芸風を確立。全国で活弁ライブを開催。声優としてもアニメ『ポチっと発明ピカちんキット』ポチロー役、『ドラえもん』ジャイ子役他出演作多数。著書に『活弁士、山崎バニラ』。宮城県白石市観光大使。自作パソコンで動画・音楽・アニメ・ホームページを作成。
Vanilla Quest オフィシャルサイト
http://vanillaquest.com/

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