【TIFF】列車旅行のすすめ(コンペティション)
作品紹介
コソボ戦争に赴いて片腕で帰還した男、不幸な結婚を繰り返す女、正体不明の医師…。複数のエピソードが互いに絡み合いながら、奇想天外な結末へと邁進する熱量の高い物語。何が現実で何が虚構か? スペインの新鋭が紡ぐストーリーテリングに注目。
クロスレビュー
藤澤貞彦/こんな列車旅行はゴメン度:★★★☆☆
列車の中で向かい合った席の精神科医が、女性に患者の物語を語り始める。すると、その中の登場人物が別の物語を語り始め、またまたその中の登場人物が、さらに別の物語を語り始める、一体どこまで続くのか・・・という、物語のマトリョーシカ構造にぐいぐい引き込まれていってしまった。それぞれがとても異様な物語で、そのうちに何が本当で、何が虚構かわからなくなってきてしまう。ストーリーが命の映画なので細かいことは言えないのだが、すべてが悪趣味限界ギリギリのラインで、それがなぜなのかは、謎が明らかになるにつれてわかってくる。多重人格者の精神世界は、かくありきか。原作があるそうで、文字の世界をよく映像に置き換えたとは思うものの、途中の一挿話が全体の流れを堰き止めてしまったところは惜しまれる。
外山香織/全部妄想と言われた方が気が楽度:★★★★★
ストーリーの入れ子構造が多層にわたっており、「これ元は誰の話なんだっけ…?」と分からなくなってしまうこともしばしば。混乱を招くつくりだが、原作小説もそのような構成になっているのだそうだ。人は自分の体験だけではなく、他人から聞いた話や読んだ本、映画などで自らの知識や世界をふくらませていく。病気が原因で外に出られなかった青年が外に出て「そんなこと本に書いていなかった!」と現実のギャップを吐くシーンは印象的である。虚構と現実の境目。私たちはそこを行ったり来たりしながら生きているというのは理解できる。とは言え、挿入される数々のエピソードがぶっ飛びすぎで、気持ちの良い話は一つもないので嫌悪感を持つ人もいるだろう。正直、最後に「これは全部主人公の妄想です、虚構です」と言われた方が気が楽である。とは言え自分が妙に現実的だと感じたのは「リアルな死の動画の方がウケがいい」という台詞。人々は虚構に飽きたらず残酷な現実を求めていると言うわけだ。イスラム過激派によるおぞましい処刑動画を多くの人が試聴していると言う現実を思い出し、人間が元来持っている性質の一部を垣間見たような気がした。
第32回東京国際映画祭
会期:令和元年10月28日(月)~11月5日(火)
会場:六本木ヒルズ、EXシアター六本木(港区) ほか都内の各劇場および施設・ホールを使用
公式サイト:https://2019.tiff-jp.net/ja/