ヒンディー・ミディアム
いまインドでは過酷な受験戦争が繰り広げられているという。本作でも尋常ではない家族の顛末が描かれているが、誇張ではなく日常茶飯事というから驚きだ。
ちなみに“ヒンディー・ミディアム”とは、ヒンディー語で授業を行う公立校のこと。対して、英語で授業を行う私立校は”イングリッシュ・ミディアム”といわれる。英語は良い仕事に就くための必須スキルで、カースト以上の意味を持つという。どちらの学校でも英語は必修だが、ネイティヴ並みの語学力が付くのは”イングリッシュ・ミディアム”ということで、親たちは何とかして我が子を入学させようと奮闘するのである。
この物語の主人公ラージは、生まれ育った下町で洋品店を営んでいる。店も繁盛し、生活にも満足している。しかし愛妻はいわゆる“教育ママ”。なんとか娘を名門校に入れようとなりふり構わない。彼らは親の学歴や居住地までもが合否に影響すると知り、高級住宅街へ引っ越すことに。ご近所さんと馴染むためにゴージャスなパーティを開くなど、あらゆる努力を試みるも、娘の受験結果は全滅。
ガックリと肩を落とす二人だったが、ある進学校が低所得者層の優先枠を設けていると聞いて、今度はその枠を狙うため貧民街への引っ越しを決行する。
本作では“お受験”というテーマを通じて、インド都市部の各階層の生活も垣間見ることができる。高級住宅街ではハリウッドセレブのような華やかな生活が繰り広げられ、貧民街ではトイレで使う水さえも争奪戦でゲットしなければならない。生活と教育水準は比例していて、格差はますます広がるばかり。それだけでなく、金持ちが貧困層からわずかなチャンスさえ奪っていることにも触れている。自分たちさえ幸せならOKな金持ちと、助け合わないと生きていけない貧困層。そのメンタリティの対比も喜劇的で面白い。また問題提起だけでは終わらず、その“落とし前”もインド流でドラマチック。
深刻な社会問題をコミカルに風刺した本作は、インド国内で多くの人の共感を得つつ、熱い議論を巻き起こしたという。同じように受験戦争が過熱している中国でも大ヒットし、現在、続編が製作されているとのこと。
9月6日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー