ガーンジー島の読書会の秘密

戦争の悲劇と向き合い、前に進んでゆく物語

エミー賞はじめ数々の賞を受賞した傑作テレビシリーズ「ダウントン・アビー」は私の大好きなドラマの一つである。『ガーンジー島の読書会の秘密』はその「ダウントン・アビー」からジェシカ・ブラウン・フィンドレイ(シビル役)、リリー・ジェームズ(ローズ役)、ペネロープ・ウィルトン(イザベル役)、マシュー・グード(タルボット役)の4名が出演しているというところに、“ダウントニアン”としては最初に興味を持った。加えて読書会というし、ほのぼの系のお話かと思っていたら、意外にもシビアな真実を突き付けられて、少し驚いた。

1946年のロンドンで暮らす若き作家ジュリエット(リリー)は、戦中期から行われていた英国領ガーンジー島の読書会の存在を知り、読書会の取材のために島を訪れる。彼女は会のメンバーと本を通じて親しくなっていくが、主催者エリザベス(ジェシカ)の姿が見当たらない。彼女の行方については、誰もが頑なに口を閉ざす。彼女は今どこに?そして、メンバーの一人ドーシー(ミキール・ハースマン)が連れている少女の存在はいったい・・・?

ジュリエットはエリザベス不在の理由を追ううちに、それが戦争と、そして島で起こったこととリンクしていることに気づく。英国海峡に浮かぶガーンジー島は、第2次大戦中はナチスの占領下にあった。英国で唯一、ナチスに占領された土地である。このことは英国本島の人もあまりよく分かっていない(エリザベスも知らなかったことが象徴している)。ナチスの兵士がのさばり、島民を統制する。食糧を奪う。通信を遮断する。集会を禁じる。島民からスパイを仕立てる。反抗する者は目を付けられる・・・。時の首相チャーチルは戦略的観点からガーンジー島の防衛を諦めたため、島の人々は本島から見捨てられたかたちになってしまった。この構図が沖縄と似ていて、胸が痛む(沖縄よりははるかにマシであったけれど)。

もし本作を見なければ、私はガーンジー島の存在も、その歴史も知ることはなかっただろう。これまであまり知られていなかった事実を、どんなかたちにしても伝えていくことは大切だと思う。血みどろの戦闘シーンがなくとも、戦争に翻弄された人生に思いを馳せることはできる。そういう点においても本作はその一助となっている。本作のメインテーマは、ジュリエットが本を通して人と出会い、その出会いを通して自分の生き方を模索していくことだが、私にはむしろ、戦争の悲劇と向き合い、前に進んでゆく物語に思え、人間の強さと確かさに心打たれた。監督は『魅せられて四月』(91、とても好きな作品!)、『フォー・ウェディング』(94)等のマイク・ニューウェル。人の心の機微を丁寧に描くのが上手い人だ、と改めて感じた。


8月30日(金)、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
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