「サラエボ、希望の街角」光へ向かう道は続く

昨年12月に紛争の和平協定調印から15年を迎えたボスニア・ヘルツェゴビナ。首都サラエボは著しい復興を遂げている。『サラエボ、希望の街角』は、ここで紛争のトラウマを抱えながらも共に暮らす若い男女の愛の行方を追いながら、新しい世代への真摯なメッセージを発している。
キャビン・アテンダントのルナ(ズリンカ・ツヴィテシッチ)は、恋人アマル(レオン・ルチェフ)と結婚を前提に同棲生活を送っている。愛情に溢れて幸せいっぱいに見える二人だが、紛争でルナは両親を目の前で殺され、アマルは戦場で弟を失った辛い記憶からなかなか逃れることができない。アマルはアルコール依存症となり、停職処分となる。そんな時、厳格なイスラム教徒であるかつての戦友と再会したアマルは、急速に宗教に傾倒していく。二人の間には徐々に溝ができていく。ある日、ルナに念願の妊娠が発覚する。彼女はどんな未来を選びとるのか、最後に下す決断は……。
監督は、長編デビュー作『サラエボの花』で2006年ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞したヤスミラ・ジュバニッチ。この作品で紛争中に集団レイプに遭ったシングルマザーとその娘の姿を描き、“女性としてどう生きるか”を提示した女性監督が、今作ではさらに新しい世代に向けて、自分たちの道を見出すことの大切さを謳っている。
精神的な安定を求めて宗教にのめりこむ。これはサラエボでなくとも、現代日本を生きる人々にもあり得ることだ。アマルは飲酒に安らぎを求め、さらにイスラム原理主義に安らぎを求め、なんとか辛い記憶から抜け出そうとする。ルナはそんな恋人を理解しようともがき、イスラム原理主義グループのコミューンにも参加するが、他人が敷いたレールの上は走らない強さがそれを邪魔する。恋人の変化をきっかけに、ルナもまた過去と向き合うことになる。ヤスミラ監督は、「どちらが正しい」とも「こうするべき」とも断定はしない。ただ、さまざまな形で、なんとか前に進もうとする若い世代の多様な姿を映し出す。ルナのラストの「選択」には賛否両論あるだろうが、それは自分の意志によって、自らの道を見出そうとする輝きに満ちている。
原題の「Na Putu」には「何かに向かう途中」、そして「もうすぐ赤ちゃんが生まれてくる」という意味があるという。ヒロインのズリンカ・ツヴィテシッチはその肉体丸ごとで「女性」を表現しており、美しい。人生の途中にいる娘であり、恋人であり、母でもある。彼女こそが監督の代弁者であり、この映画の母胎のようだ。
Text by:新田理恵
オススメ度★★★★☆

◆原題:NA PUTU
◆英題:ON THE PATH
◆2月19日(土)岩波ホールほか全国順次ロードショー!
◆配給:アルバトロス・フィルム
◆コピーライト:
© 2009 Deblokada / coop99 / Pola Pandora / Produkcija Živa
/ ZDF-Das kleine Fernsehspiel / ARTE

【監督・脚本】ヤスミラ・ジュバニッチ
【出演】 ズリンカ・ツヴィテシッチ/ レオン・ルチェフ/ミリャナ・カラノヴィッチ/エルミン・ブラヴォほか
2010年/ボスニア・ヘルツェゴビナ、オーストリア、ドイツ、クロアチア合作/104分

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    サラエボ,希望の街角…

    『サラエボの花』のヤスミラ・ジュバニッチ監督の第2作。ボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボを舞台に、あるカップルがとある出来事を境にすれ違ってゆく姿を描く。主人公のヒロインを演じるのは新人ズリンカ・ツヴィテシッチ。恋人役に『サラエボの花』のレオン・ルチェフ。内戦から10年、今だ残るその心の傷跡が痛々しい。…

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