風をつかまえた少年

人生を変えた1冊の本

これはアフリカのマラウイという世界最貧国で実際にあった話

当時14歳だったウィリアム少年はやがて大人になり、『風をつかまえた少年』という著書でその時の体験を語ることになる。世界的ベストセラーとなったその本は、『それでも夜は明ける』で主演を務めたキウェテル・イジョフォーの目に留まる。本に感動したイジョフォーは10年をかけて映画化、さらにウィリアムの父親役も演じることになる。

物語は今から20年ほど前のこと、マラウイは洪水や干ばつによる自然災害で飢饉に陥っていた。村人のほとんどは農家で、収入は途絶え、他の場所に移り住む人もいるほどだった。ウィリアムの家も例外ではなく、学費が払えなくなったウィリアムは退学を余儀なくされてしまう。

が、なんとか勉強は続けたいと思っていた彼は図書館で独学するようになり、やがて1冊の本と出会う。理科が好きだった彼が手に取った本は『エネルギーの利用』というアメリカの教科書。そこには風力発電の作り方が書かれていた。

村はさらに長雨と大干ばつに襲われ、ウィリアムの家も深刻な事態に。学費どころか食べものを買うお金もなく、備蓄の食料も尽きてきた頃、姉は食いぶちを減らすために恋人と駆け落ちという展開。家族は空腹と絶望感で崩壊寸前に追い込まれていた。

そんな状況を救ったのは、ウィリアムが図書館で身につけた知恵と教養だった。

まず、貧しい村の貧しい学校にこんな図書館があったのか!という驚きがあった。映画を観ている時は「どうしてアメリカの教科書がこの村の学校に置いてあるの? 司書の選書センス、ハンパないわ」と感心しきりだったが、原作本を読んでみると、それはNPOが作った図書館で、ウィリアムが出会った本はアメリカ政府から寄贈された本だということがわかった。
教育を受けられないことで貧困の悪循環に陥ってしまうのが世の常だが、貧困からの自立を助けるための支援がこのような形で実を結ぶとは・・・そこに重なったウィリアムの不屈の信念。まさに奇跡の物語といえよう。

本作は語るべき切り口が豊富な作品だと思うが、私自身が司書ということもあって“1冊の本が運命を変えた”という事実に大いなるトキメキを感じてしまった。支援にはさまざまな方法があるけど、教育支援の意義と可能性にあらためて気づかされる話だった。
キウェテル・イジョフォーにとっても、監督デビューをもたらした原作本『風をつかまえた少年』は、“運命を変えた1冊”だったのかもしれない。

8/2(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館他全国順次公開

© 2018 BOY WHO LTD / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE / PARTICIPANT MEDIA, LLC

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