北の果ての小さな村で
清涼感MAXの風景が、ムシ暑さを吹き飛ばしてくれるかも!
本作は北極圏にあるグリーンランドが舞台。オーロラやフィヨルド、果てしなく広がる雪原など、圧巻の自然美が観る者を迎えてくれる。が、実際にそこで暮らす人々は、厳しい環境のなかで常に“生きること”と向き合っている。彼らは環境に柔軟に対応することで生命を維持してきた。
主人公のアンダーズは大柄の白人男性で人の善さそうな笑顔が印象的だ。どこか癒やしを感じさせる存在で、動物に例えるならシロクマといったところ。彼は母国デンマークを離れ、グリーンランドの田舎町の小学校でデンマーク語を教えることになる。しかし子どもたちにとって、アンダースの授業はどうやら退屈らしい。
ここで“教育とは何か”とあらためて考えさせられる。
子どもたちにとってアンダースの授業は退屈というより、現実味のないものなのだろう。デンマーク語が話せたって、アザラシを捕れやしない。彼らにとっては、生きること=アザラシを捕ることで、そのために必要な知恵こそが学びなのである。ナイフの使い方や犬ぞりの作り方、また実際の狩りにいたるまで、体験でしか学べないことがたくさんある。
また村で生きていくためにはチームワークが肝心。イヌイット文化を理解し、助け合うことが不可欠である。都会暮らしでは考えられないが、食料の調達でさえ独りでは困難なのだから。
学級崩壊を目前にして、アンダースはマニュアル通りの授業を棄てて、彼らの生活と繋がるような教育を模索していくことになる。グローバル化していく社会に必要な教養と、その土地で生きるために必要な“教え”。その狭間で揺れながら、アンダース自身も一人の人間として多くを学び、成長していく。
本作はドキュメンタリータッチで、村人の生活はそのまま映しながら、村で暮らす子どもたちの運命や、他所から来た者の目線を描き出していく。主人公役のアンダースは実際に教職課程を修了しており、家業の農家を継ぐことに悩んでいたというが、結局、撮影後もグリーンランドに残り、そのまま村で先生を続けているという。
大自然の景色も見どころだが、ダイナミックな狩りのシーンやシロクマとの遭遇など、息をのむような光景に圧倒される。