パラレルワールド・ラブストーリー

「混乱」を体現する玉森裕太の存在感とエンディングの妙

ある日突然、崇史(玉森裕太)が迷い込んだ2つの世界。1つの世界では、愛する麻由子(吉岡里帆)と自分が恋人同士。しかし、もう1つの世界では麻由子が親友の智彦(染谷将太)の恋人に…。混乱する崇史の前に現れる、2つの世界をつなぐ『謎』の暗号。目が覚めるたびに変わる世界の中で、真実にたどりつけるのか?(公式HPより)

※このレビューは本作の結末に触れています

パラレルワールド
ラブストーリー

とタイトルが出た時に違和感を感じるのは気のせいではない。上の行の文字体と下の行の文字体が異なるうえに、パラレルの「ラ」とラブの「ラ」だけが逆の文字体になっているのだ。本作は、違和感、混乱、不穏さで満ち溢れている。
まずは人間関係の混乱。親友同士という男二人の、どこか歪な関係。そこにある女性が絡んで起こる三角関係。主人公の崇史は、ひとつの世界では親友の恋人を好きになってしまう。彼に幸せになってほしい気持ちと嫉妬心が交錯する。頭脳明晰でスポーツ万能、学校でも人気者だった崇史がおそらく初めて陥る感情。これまでの自分に起こりえなかった「もの」に戸惑いつつも、麻由子を好きだと言う思いは止められない。実は映画ではそのあたりの心情の描写が希薄なため、一見「自己中のイヤなやつ」であるが、それをKis-My-Ft2の玉森裕太が演じることで主人公として収まっている印象だ。玉森裕太はかつて湊かなえ原作のドラマ「リバース」(2017)でも秘密を抱えた高校教師を演じていたが、彼は「良い人」「全うな人」と言うより、「良い人とは言い切れない」役を演じるのが巧い。アイドルの風貌や佇まいを持ちながら「ヒーロー」とはちょっと違う影の部分を、森監督はうまく引き出していると思う。
謎の女性、麻由子は、最後までどちらが好きなのか分かりにくい。本作の混乱の象徴でもあるだろう。智彦と一緒にいるのは同情なのか。崇史と一緒にいるのは義務感からなのか。自分のせいで二人の友情が崩壊してしまうのに幸せになることなどできないと言う思い。一方で彼女は「あの時、彼ときちんと出会えていたら」という仮定法過去にずっと縛られていたとも言える。だからこそ、「何もかも忘れてまっさらにしたい」というラストの気持ちにつながるのだろう。
三輪智彦。崇史への憧れ―崇史のような人間になりたくてなれない自分、しかし「親友」でいることで自分も崇史と「同格」になれるのではないかと言う複雑な感情を抱えているのではと思わせる。唯一勝てる要素があるとすればそれは研究者として、だ。その側面に麻由子が惹かれたのも事実。しかし彼は研究にのめり込んでいき、やがては人間が越えてはいけない領域に達してしまう。穏やかで周りに気を使う智彦が、徐々に没入し変わっていく。染谷将太の鬼気迫る演技は、観ている私たちにも怖さを感じさせる。

そして、パラレルワールドのもたらす混乱。私たちもこの映像がどの世界なのか推測するしかない。崇史が終始困惑しているように、記憶の曖昧さは人間を底知れない不安に陥れる。私は、以前駅のホームで倒れて頭部を強打した経験があるが、実際その時の記憶は飛んでいる。倒れてから、駅員室で目が覚めるまで全く覚えていないのだ。相当痛かったはずだがそれも覚えていない。人間の記憶は強度の痛みや怖さを忘れるようにできるのではないかと思う。だから、映画で描かれる智彦の研究内容―記憶の改編―には妙に納得できた。生きていれば幸も不幸もあるが、おそらく人はすべてをそのまま覚えて生きていくのではなく、都合の良いように改編していく。人間は弱い。もし、それを思うままにできるとしたら。仮定法過去を現実のものにできるとしたら。すべてを忘れて何もなかったことにすることにできたら。人類の夢のひとつと言えるだろう。しかし、それにはやはり代償が伴うのだ。

東野圭吾の原作は1995年の刊行。24年前の小説だ。最も現代と異なるのは携帯電話の存在だ。小説では登場しないが現代では使わないわけにはいかないだろう。しかし、「記憶の改編」を前提とした場合、携帯電話ほど騙しやすいものはないのではないかとも思う。LINEのトーク記録、インスタグラムやツイッターの投稿。実際、これほど本人が事実だと認識しているものはなくて、これを他者に改編されたら危ういと思う。映像化が困難とされた原作を四半世紀後に甦らせることは至難の業だが、うまく現代に落とし込めたのではないだろうか。映画のラストは原作とは異なっている。映画は一見幸せな結末で、それが安易だと思う人もいるかもしれない。しかし、結局はそれだって現実なのか分からないし、記憶の改編がまたどこかで破綻する恐れがあることを私たちは知っている。言えるのは、そういう世界もありうる、と言うこと。そして誰もが、より良い人生を送りたいと願っていると言うこと。宇多田ヒカルの「嫉妬されるべき人生」に着地するエンディングがつくづく絶妙だと思う。

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