『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』本作はワイズマン監督からのラブレター
世界で最も有名な図書館といわれているニューヨーク公共図書館(以下、NYPLと表記)。本館と分館を合わせた計92館からなる世界最大級の知の殿堂は、多岐にわたる活動で市民生活を支え、文化と芸術の発展に寄与し続けてきた。『ティファニーで朝食を』ではオードリー・ヘップバーン扮するヒロインがお気に入りの場所として通い、映画版『SATC』ではサラ・ジェシカ・パーカー演じるキャリーが結婚式の会場として選ぶなど、NYPLは映画のなかにもたびたび登場し、地元ニューヨーカーにとって親しみ深い存在であることが窺える。ウディ・アレンやスパイク・リーといった著名な映画監督もNYPLの常連だという。
本作の監督である巨匠フレデリック・ワイズマンは、今回このNYPLを主題に選び、舞台裏の会議の内容までカメラに収めている。そこから見えてくるのは図書館スタッフの本気と熱意。映像にはNYPLが市民から愛され続けてきた理由だけでなく、「未来に図書館は不要」だという風潮に対するワイズマン監督のアンサーがあるように思われる。
本作の公開に先立ち、映画にも登場するニューヨーク公共図書館幹部キャリー・ウェルチさんが来日。トークイベント「ニューヨーク公共図書館と図書館の未来」が行われた。第一部ではキャリーさんとともに、ニューヨーク公共図書館を取材した名著で知られる在米ジャーナリスト・菅谷明子さんが登壇し、トークと映画の紹介が行われた。本記事ではその内容をお届けする。ちなみに菅谷さんの著書『未来をつくる図書館〜ニューヨークからの報告』は司書必読の本であるが、NYPLの取り組みをわかりやすく詳細に伝えており、映画では描ききれないことにも触れているので、この機会にぜひオススメしたい。
会場・日時:日比谷図書文化館コンベンションホール/2019年4月9日 18:30-
ゲスト:キャリー・ウェルチさん(NYPL渉外担当役員)、菅谷明子さん(ジャーナリスト、『未来をつくる図書館〜ニューヨークからの報告』著者)
●ワイズマン監督からのラブレター
(キャリーさん)「自分たちで言うのもどうかと思いますが、この作品はフレデリック・ワイズマンの傑作だと断言できます。3時間半の長編ですが、それでもNYPLのほんの一部しか伝えていないですし、氷山の一角であります。映画を拝見して、これはNYPLへのラブレターなのだと受け止めています。撮影の3ヶ月間と準備のための2ヶ月間をご一緒できたことは最高の体験でした。彼はアメリカ的ドキュメンタリーの父と位置付けられている方で、素晴らしい知性と叡智とユーモアを持っています。今作でも絶妙なユーモアを随所に感じられると思います」
●NYPLの特徴について
(キャリーさん)「125歳になるこの図書館は、アンドリュー・カーネギーによって建てられました。“図書館は庶民のものでなければならない”という信念のもとに作られ、庶民のため、また学術研究のための図書館として両立を目指してきました。現在、分館と呼ばれているブランチライブラリーが88箇所あり、地域社会のためのサービスを提供しています。また3箇所のリサーチライブラリーは、コレクションと呼ばれている学術的・研究用資料を収蔵し、その特徴を裏付けています。総勢3000名ほどの職員がそのサービスを支えています」
●日本の公共図書館との違い
(菅谷さん)「大学や企業という大きな組織から離れて、はじめて情報の格差というものに気づきました。フリーのジャーナリストにはリサーチのためのデータベースが必要ですが、個人で契約するには高額すぎます。NYPLはデータベースを無料で貸出していて、それを使うために毎日通っていました。そして、自分と同じように毎日来ている人がいることに気づいたんです。彼らに興味を持つようになり観察していると、いろんな目的で来ていることがわかりました。教養を高めるだけでなく、情報を使ってアクションを起こすために利用している。そこが日本の公共図書館とは違うところだと思います。映画では、『この活動は図書館が行うものなの?』という驚きが全編にわたって散りばめられています」
●3時間半はむしろ“短い”⁉︎
(キャリーさん)「たしかに、今どきありえないぐらい長い映画ですが、それでもNYPLの一部しか伝えてきれないと思います。それでもこの複雑な図書館を最後まできれいに描きっていて、私たち図書館職員が呆気にとられるぐらい見事な手腕を発揮されています。全貌を伝えようとすると永遠に終わらなくなってしまいますが、本作はNYPLがやろうとしていることをしっかりと伝えていると思います」