『リアム16歳、はじめての学校』カイル・ライドアウト監督

“母親が親友”の16歳男子を描いた訳

16歳。多感なこの年頃の少年少女が主役の映画には、きらめきやほろ苦さが詰まっている。
『リアム16歳、はじめての学校』(4月27日公開)は、子供の頃から母親に自宅教育を受けて育った主人公リアムが、16歳で飛び込んだ学校生活で経験するさまざまな“初めて”をポップに描く。
高卒認定試験を受けるために足を踏み入れた公立高校で、義足の女の子に一目惚れしたリアムは、学校に通うことを決意。初めての恋、学校で経験する人間関係 、母親からの巣立ちーーさまざまな経験をして、リアムは成長していく。
誰しもが身に覚えのある青春の1ページをキュートなコメディドラマに仕上げたのは、俳優としても活躍するカナダのカイル・ライドアウト監督。来日した監督にお話をうかがった。

カイル・ライドアウト監督/作品と同じでノリがいい!


ーーポップなテイストにまとめられた作品でした。トーンを統一するために気をつけたことは?

カイル・ライドアウト監督(以下、監督):観客はもちろん、俳優にも楽しんで演じてもらいと思って撮影に臨んだので、現場でつくった楽しい雰囲気をカメラに収めたという感じです。皆に共通認識を持ってもらえるように、『JUNO/ジュノ』(2008)を参考に見てもらいました。コメディだけどコメディになりすぎず、でも、登場人物たちには笑える。そんな絶妙なトーンを意識してもらった。

ーー映画の着想についてうかがいます。監督がお住まいのカナダ・バンクーバーには、リアムのように自宅教育を受ける子は珍しくないのですか?

監督:そうなんです。学校を閉鎖して、みんな家庭で教育を受けることになっています。

ーー!!

監督:冗談です(笑)。比較的新しいスタイルで、まだ少ないです。でも、「リアムの親友は母親」という設定にしたいと思ったのです。ドラッグ、セックス、アルコールといった、普通なら学校で友だちから学ぶようなことを、本来であれば一番学びたくない母親から学ぶという親子の形が面白いと思いました。

ーー日本の場合、いじめなどが理由の不登校や、授業についていくことが難しいなど、やむを得ない理由で自宅教育を受ける子が多い印象です。この映画では、母親が息子を純粋培養したい、もっと高い教育を受けさせたいと考えたことが発端ですよね。

監督:北米では、親が学校のシステムに満足できず、「ベストな教育を子供に施したい」と願って自宅教育を選ぶ親が多いです。もっと早いペースで勉強させたいとか、そういったケースですね。

ーーリアムはシングルマザーの母親クレアと、祖母(クレアの母親)の3人暮らし。「母さんは誰よりおばあちゃんに影響された」というリアムの台詞がありますが、クレアと祖母の関係は詳しく明かされません。あの母娘の裏設定は?

監督:祖母はクレアをありのまま受け入れ、彼女に無理はさせないような母親だったという設定です。
クレアは高校生のときにリアムを妊娠。でも、学校は何もサポートしてくれなかった。彼女が通った高校は“参加賞”で生徒を満足させるような学校で、もっと頑張れば伸びる生徒の力も伸ばそうとしなかった。
実際、カナダの学校にはそういう傾向があります。普通はABCと評価を下しますが、Aでもなく、不合格でもなく、やんわり「少し進歩してます」としか言わない。子供を傷つけないように気を使う学校が増えている。クレアはそうではなく、「もっとやれば伸びる」と子供の尻を叩くような母親にしました。

ーー優劣をつけたがらないというのは、日本の学校も似ています。

監督:僕は「Studio58」という演劇学校に通っていたのですが、そこの教育はとても良かった。上手くできなくても「Bad(悪い)」とは言われないけれど、「もっとできるはず」と自分を高めて行く方向へ学生を追い込んでくれた。だから、クレアもそういう教育方針を持った母親にしたかったし、「子供たちが守られすぎている」という問題を入れ込むことについては、この映画を作るにあたり、はじめから意識していた部分です。

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