【イスラーム映画祭4】イエメン:子どもたちと戦争

特集:イエメン“世界最悪の人道危機”3

 『わたしはヌジューム、10歳で離婚した』のハディージャ・アル=サラーミー監督により2018年のサナアで撮影されたドキュメンタリーである。一時的に小康状態だった2014年に製作された『わたしはヌジューム…』では、美しい姿をしていた旧市街 (世界遺産)の一部の建物が、サウジアラビアの爆撃によって無残な姿に変わり果てていることに、まずショックを受ける。途中挟まれる近郊の山への大爆撃や市内への空爆の映像は、地上から写した絵ゆえに勿論ショッキングではあるが、この作品の主眼はそうした映像を見せることではなく、あくまでも子供たちに焦点を当てて作られている。

 今回のイスラーム映画祭では「最大の被害者はいつでも子供」ということが、自然に浮かび上がってくるプログラムが組まれている。『わたしはヌジューム、10歳で離婚した』トルコのシリア難民の子供たちの心の傷を描いた『その手を放さないで』。スタジアムに暮らすクルド人という特殊な状況でイラク戦争後の混乱を描いた『僕たちのキックオフ』。『西ベイルート』も少年少女たちから見た内戦ということでこの中に含めることはできるし、一見楽しいインド映画の『ナイジェリアのスーダンさん』にしても、ナイジェリア内線を経験した子供のその後の姿を描いた作品とも言える。

 こういう事態に遭遇して人がどんな行動を取りたくなるか。叫び出したくなるのである。大人も子供も関係ない。ただただ叫び出したくなってしまうのである。『その手を放さないで』では、普段は優しい笑顔を見せていた子供が、苛立った気持ちを抑えられないといった風情であったし、『西ベイルート』では、大人も子供も叫んでいる人たちが、多数出てくるのである。このドキュメンタリーでは、3人兄弟のお兄ちゃんが、イライラを抑えることができずに、弟妹の勉強の邪魔をして叫んでいるシーンが冒頭のほうで出てくるのだが、それが子供の置かれた状況を、端的に表している。

 この作品が秀逸なのは、監督自身がインタビューをするのではなく、子供たちにインタビューをさせているところである。もちろん、子供たちの自由発想ということではなく、監督自身がお膳立てをしたうえでやってはいる。インタビュー自体が、サウジアラビアに対して武器供与を行っているEUに対してメッセージを伝えるという明確な目的を持っているからだ。

 それでも他の方法では得難いものがある。大人との間では化学反応のようなものが起こるし、子供同士の場合には、素直な気持ちが伝えられることになる。これは作品を観ていただくほかないのだが、子供たちと祖母との対話、葬式の最中に爆撃されたモスク跡でのアーティストと子供たちとの対話、家が爆撃され一家が全滅し、たまたま外に出ていたために、助かった小さな女の子との対話が心を揺さぶられる。女の子の話を聞いていて、泣き出してしまう子供たちの自然な反応には、こちらまで辛くなってきてしまう。ニュースなどでは、なかなか見ることができない、イエメンの今を見られる貴重な作品ということ以上に、「最大の被害者はいつでも子供」ということを強く実感させられる作品である。

【イスラーム映画祭4開催概要】

【東 京】
会期 : 2019年3月16日(土)~3月22日(金)
会場 : 渋谷ユーロスペース( http://www.eurospace.co.jp/
※チケット:上映日の3日前よの各開始1時間前まで、劇場HPにてオンラインチケット購入(クレジット決済のみ)が可能です。
 劇場窓口でも同じくし上映日の3日前より販売いたします。
【名古屋】
会期 : 2019年3月30日(土)~4月5日(金)
会場 : 名古屋シネマテーク( http://cineaste.jp/
【神 戸】
会期 : 2019年4月27日(土)~5月3日(金)
会場 : 神戸・元町映画館( http://www.motoei.com/
主催 : イスラーム映画祭
公式サイト:http://islamicff.com/
Twitter : http://twitter.com/islamicff

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