【イスラーム映画祭4】わたしはヌジューム、10歳で離婚した
依然内戦状態のイエメンは、2015年には“世界最悪レベルの人道危機”という宣言が国連から出されている。今回特集された作品を観ていると、イエメンで何が起こっているか、なぜそういうことが起こったか。その一端が見えてくる。イエメン“世界最悪の人道危機”ということで、本映画祭で上映された3作品を時系列順に特集してみました。
初めて観るイエメン映画。崖のような急斜面に石が積み上げられ、棚田状になっている畑の絶景。首都サナア旧市街の美しさ。女性の民族衣装の可憐さ。そのすべてがもの珍しくてすっかり魅せられてしまった。それだけ魅力的な文化を持った国だけに、児童婚のような非人道的なことが認められているということが、余計に残念に思えてきた。
この作品は、イエメンの監督によって国内で撮られた初めての劇映画なのだそうだ。それが女性監督によるものだったというところが、この2年前、やはりサウジアラビアで作られた初めての劇映画『少女は自転車にのって』(2012)が、女性監督(ハイファ・アル=マンスール)による作品だったことをも想起させてくれる。本作を観ていても感じるところなのだが、伝統に縛られ名誉を重んじる男性よりも、一見男性社会に支配されているように見える女性のほうが、かえって柔軟な考えを持っているような気がしてくる。
本作は、まだ人形を抱いて寝ていたい年頃の少女が親の取り決めで結婚させられる、いわゆる児童婚の問題を一面的に描くのではなく、様々な角度から捉えているところが秀逸である。裁判所に離婚の訴えをしにいくところから始まり、少女の視点から語られる事の顛末は、少女に寄り添う形で展開し、観客にもその苦しみを体験させるような形で進んでいく。いきなり知らない土地にひとり連れていかれ、夫婦の生活や妻の役割を強いられ、反抗すれば殴られる。昨日まで普通に同じ年頃の子どもたちと遊び、結婚指輪よりも赤ん坊の人形に喜びを感じていた少女が、こんな環境にいきなり放りこまれるその残酷。こちらまで息苦しくなってくるほどだった。
後半は裁判で、なぜそのようなことが起きてしまったかを、それぞれの立場から明らかにしていく。ヌジュームの父親は娘を嫁がせる代わりに婚家に借金を返済してもらい、家族を守るしかないというところまで追い詰められていた。夫のほうは、年取った母親と暮らし生計を立てていくために、“働き手”が必要という事情があった。利害が一致し、このような理不尽なことが行われてしまったのだが、両者に共通するのは、伝統に乗っ取ってやっているのに、何がいけないのだということである。
父親の側には、まだ10歳に過ぎない娘だから、婚家もそんなにひどいことはしないだろうという思い込みがあり、夫の側には、父親が納得して嫁に出しているのだから、自分は妻に対して当然のことをしているだけだという言い分がある。単に自己を正当化しているに過ぎないのだが、それに対して保険のような役割を果たしているのが、“伝統”なのだ。これは、上映後のトーク・セッションでも言われていたことなのだが、それこそが私たちを思考停止に陥れている。そのことが一番の問題なのである。伝統だけではない。宗教、因習、常識、慣習、先例、私たちはいかにこれらの言葉によって思考停止に陥ってしまっているだろうか。もちろんそれらがすべていけないということではないのだが、なぜそうなのかを考えるだけでも、物事の本質は見えてくるはずである。しかし、人間は兎角楽なほうに流れるもの。「人は喜んで自己の望むものを信じるものだ」とはカエサルの言葉だが、至極名言である。
【イスラーム映画祭4開催概要】
【東 京】
会期 : 2019年3月16日(土)~3月22日(金)
会場 : 渋谷ユーロスペース( http://www.eurospace.co.jp/ )
※チケット:上映日の3日前よの各開始1時間前まで、劇場HPにてオンラインチケット購入(クレジット決済のみ)が可能です。
劇場窓口でも同じくし上映日の3日前より販売いたします。
【名古屋】
会期 : 2019年3月30日(土)~4月5日(金)
会場 : 名古屋シネマテーク( http://cineaste.jp/ )
【神 戸】
会期 : 2019年4月27日(土)~5月3日(金)
会場 : 神戸・元町映画館( http://www.motoei.com/ )
主催 : イスラーム映画祭
公式サイト:http://islamicff.com/
Twitter : http://twitter.com/islamicff