ふたりの女王 メアリーとエリザベス

いちばんのライバルが最大の理解者という運命の皮肉がとても切なくて。

16世紀の英国。世界史のなかでも最も心躍る時代だ。王位を巡っての陰謀、反乱が絶えず、食うか食われるかの争いはドラマチックでワクワクする。もちろん当時の人たちは必死に権力闘争を生き抜こうとしていたわけで、それを「楽しい」と言えるのは不謹慎だろうが、まぁ、後世の人間の特権なわけであって。

わけてもイングランドのチューダー朝の時代、もっとフォーカスすればエリザベス1世とスコットランドのメアリー・スチュアートの物語は興味が尽きない。母を父に殺されたり、異母姉によってロンドン塔へ投獄されたりなど若い頃から苦労続きだったが、イングランドを黄金時代に導き、処女王として君臨したエリザベス。片や生後6日目にしてスコットランド女王に即位、16歳でフランス王妃と栄華を極めたと思いきや、夫のフランス王が亡くなった後の後半生は栄光に満ちたとは言い難いメアリー。イングランドの王位を争うライバルとされ、対照的な人生を送ったふたりだが、本作では「女王」という共通項で共鳴し合っていたという新たな解釈を加え、女王ならではの苦悩と孤独にフォーカスしている。それが現代の女性の社会進出を阻む壁とリンクし、歴史ものであると同時に現在に通底する問題をも浮き彫りにしている。メアリー役にシアーシャ・ローナン、エリザベス役にマーゴット・ロビーと勢いのある女優ふたりを揃えたのも、要注目だ。

本作にはふたりの女王以外にも、ウィリアム・セシル(エリザベスの重臣)、ダーンリー卿(メアリーの2番目の夫)、ボスウェル伯(メアリーの3番目の夫)、マリ伯(メアリーの異母兄、愛人の子なので王位継承権はない)、レスター伯(エリザベスの恋人)、ジョン・ノックス(プロテスタントの指導者で女性蔑視者)など実在の人物がわんさか出てきて(当たり前だが)、おおおっ!と歴史好きの気分が上がる。しかし女王たちに比べると、男たちの影がどうも薄い。その割には、「女のくせに」とか「このバカ娘が!」など女王への嫉妬、女性に対する蔑視や理解不足、そのくせ強い権力欲をちらつかせるのだが、やはり小者な感じは否めない(セシル役のガイ・ピアースはさすがに重厚な演技を見せるが)。だが、恐らくこれはシアーシャとマーゴットをより際立たせるため、そして何よりも現代の男女の不均衡な関係を暗示させるための確信犯的な演出であろう。ただ、歴史好きとしては、家柄の良いダーンリー卿(ジャック・ロウデン)がマリ伯(ジェームズ・マッカードル)に対し「庶子のくせに」と言ってはならない(であろう)一言を言い放った際のマリ伯の描き方を、もう少し掘り下げてほしかったな・・・と思う。

シアーシャ、マーゴットはともに圧倒的な存在感を見せている。特に、ふたりの対面シーンは息が止まりそうになるほどの緊迫感で、本作で最大の見どころだ。それぞれの国の命運を担い、権力を狙う者から王座を守るため、火花を散らすふたりの駆け引き。互いの矜持がぶつかりつつも、どこかで互いを思いやる。互いの立場をいちばん理解していたのは最大のライバルだったという運命の皮肉が、何とも切なく胸を締め付ける。そしてその結末にも・・・。メアリーとエリザベスは、史実では顔を合わせたことはないとされているが、あえてフィクションのシーンを物語の山場に持ってくる大胆な演出も好感だ。


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