『マイ・ブックショップ』本を読んでいる時の孤独は、人間に与えられた最上の時間

“本屋の娘”でもある作家・林真理子さんがトークショーに登壇

3月1日、シネスイッチ銀座で行われた映画『マイ・ブックショップ』の試写会に、作家で“本屋の娘”でもある林真理子さんが登壇した。「本への愛おしさがこれほど込められた映画はない」と絶賛し、その魅力を語った。

映画の舞台は1959年、イギリスの小さな海辺の町。物語は夫を戦争で亡くしたフローレンスが、町でたった一軒の書店を開こうと決意するところからはじまる。フローレンスは先進的な作品を精力的に紹介し、書店には多くの住民が詰めかけるようになるが、保守的な町の権力者がフローレンスを抑圧し追いつめていく。

林さんの母親は作家になることが叶わず、地元・山梨で書店を開き、林さんはそこで本に囲まれた少女時代を過ごしている。林さんが作家になることができたのは、作家を志していた母親のDNAというより、本屋の娘という環境が大きかったという。そんなご自身の幼少期とフローレンスの書店で働く少女の姿が重なって、「本にはその情熱を継いでくれる人が必ず現れる」と感じ、涙したという。

監督は、困難に屈せず自分らしく生きる女性を撮り続けてきたイザベル・コイシェ(『死ぬまでにしたい10のこと』)。本作も決して甘い夢物語ではないが、時代を映したファッションや、革装の滑らかな質感、紅茶をそそぐ音など、甘美な瞬間に満ちた作品である。


■本屋の情熱
(林さん)「私の母親は文学少女で作家になりたいという夢をずっと持っていたけどそれが叶わず、小さな田舎の本屋で一生を終えました。私は母の遺志を継いで作家になったわけですが、この映画で本はその情熱を継いでくれる人が必ず現れるのだと感じ、涙が出てきました。この映画の『人は本の中でその物語の住民になることができる』というフレーズは名言だと思います。人は孤独を嫌がることが多いですが、本を読んでいる時の孤独は人間が与えられた最上の時間だと思います。本への愛おしさがこれほど込められている映画はないと思います」。

■1950年代の英国スタイルの魅力
(林さん)「少女のピンクのカーディガンが可愛らしいこと! 1950年代のイギリスのプリントの柄の合わせ方というのが素晴らしく、ブラウスとベストの柄の合わせ方もいいですよね。紳士のコートの着方とか、帽子のかぶり方など着こなしがとにかくステキ。紅茶の飲み方にもティータイムというものがあって、近所の人とお茶を飲むだけなのにネクタイをして、ジャケットを着て、テーブルに白いクロスをかけたりして。本への信仰もあり、本を読むことが尊敬される行為だったり、良い時代だと思います」。

■本屋の苦労
(林さん)「母が『本屋とタバコ屋は儲からない』とよく言っていました。好きじゃなきゃやってられない仕事です。本は重いし、実は重労働。返本の作業はとても大変そうに見えたけど、新刊書をこっそり読むことができて、それは嬉しかったです。雑誌の付録をはさむ手伝いは毎回やっていて、想像するほど優雅な仕事ではなかったです」。

■好きな本屋
(林さん)「ドイツの近代史が好きで、とくに戦争前夜のナチス関係の本があると買ってしまうんです。よく行く本屋にはそういった本がいつも並んでいて利用していたんです。でもその本屋さんが閉店してしまって、後で聞いたら『これは林さんが買うだろう』と仕入れてくれていたそうなんです。本屋の素晴らしいところは、買うつもりではなかった本にもつい手が伸びてしまうところですね」。

■本離れについて
(林さん)「今日ここにいらっしゃる人たちは本が好きな方ばかりだと思いますが、子どもの時に(本の)咀嚼力というものを蓄えないと本当に大変なことになると思うんです。でも今は楽しいことがいっぱいあるから・・・。私たちも万策は尽きているという感じですが、この映画がきっかけになってくれればいいと思います。人が本を読む姿って本当に美しいと思うんです」。


3月9日(土)よりシネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMA他にて全国順次ロードショー
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