【TNLF】アマチュアズ
スウェーデン西部の田舎町ラフォーシュ、ここはかつて皮革工場で栄えた街。カウボーイハットにロデオ、冒頭のまるでアメリカの街と見まごうかのようなお祭りは、その名残なのだろう。モノクロで紹介されるこの街の繁栄を紹介する歴史ビデオと、現代の映像の対比。空き家になっているお店、さびれた工場、お年寄りがゆったりと歩く以外にひと気のない現在の風景が、この街の廃れようを明らかにする。あまりにもリアルなので、本物かと思いきや、実はラフォーシュという名前の町自体が存在しない。出演者は皆アマチャアなので、地元の人を使ったといった風情なのだが、親子も全然関係のない人たちが演じているし、素人俳優を使う時によくある本人の名前をそのまま使うといったことも、この映画ではない。モデルとなった町自体は存在するのかもしれないが、セミ・ドキュメンタリーではなく、あくまでも架空の話なのである。
廃れた街を何とか活性化できないか。町議会はドイツ資本の大型スーパー出店のチャンスを何とか物にしようと、PR動画の制作を決定する。もしスーパーを誘致できれば500人の雇用が生まれるというのだ。この話を聴くかぎりでは、それがいかにも素晴らしいことのようにも思えるのだが、もちろんそこに落とし穴がある。PR動画の制作の過程で、それがもたらすことの本当の意味や、町の欺瞞や矛盾が次々に明らかになっていく。
この作品は3つの視点から成り立っている。PR動画の制作費がないために、最初に頼んではみたものの、町の意向と合わずにキャンセルされた地元の高校生のスマホで撮ったビデオ、特にこの映画の主人公ダナとアイダの視点。建設会社がスポンサーとなって、プロの監督が製作することになり町の意向を反映した、公式PRビデオの視点。町のPRビデオが、ドローンを手元のコントローラーで操作し空中撮影を行っていたのに対し、それを追いかけていくダナとアイダがバイクに乗って、いわば地に這いつくばってスマホカメラを回していたのが、何より立場の違いを象徴しているようだ。さらに第三者として両者を見つめるガブリエラ・ピッシュレル監督の視点もある。高校生たちが撮ったビデオは、実際に本人たちが写した映像もあるにはあるが、PRビデオも、それらの撮影の様子を写すドラマ部分の映像も、当然ながらすべては監督によってコントロールされているのである。実によくできている。
プロの監督がPRビデオで古い橋を撮ろうとしている時に、偶然浮浪者然とした人物が、橋の上で荷物を下ろし、釣りを始めようとするシーンがある。ルーマニアからやってきた若い男で、言葉が通じないために、テントに寝泊まりし、釣りをして食べ物を得ていることが後でわかる。美しい街には、“あってはならないこと”である。人払いをお願いする監督。偶然居合わせたルーマニアからの移民の男が通訳を買って出るが、言い争いになる。努力してスウェーデン人になった彼には、そんな同胞が許せないのである。逆に浮浪者の彼からしたら、同胞のくせにスウェーデン人気取りになって、何を威張り腐っているのだといったところだろう。傍らに同席していた役所の人は、言葉がわからないから、何が起きているのか、なぜ自分が侮辱されたニュアンスの言葉を言われているのか、まるで理解できない。
このシーンひとつだけを取ってみても、困っている人をいないことにしたい政治となすすべもない役所、そういう人を前にした時の一般人のとまどいと、ただ怒るしかない困窮者との関係性がよく表れている。そのうえこのシーンでは、その様子を高校生たちがスマホで撮り、都合の悪い役所の人と言い争いになるという二重性が仕掛けられているから面白い。まさに社会の縮図という感じがするのである。
高校生がスマホで写す街の風景は、PRビデオの世界とはまるで違って見える。アラビア語、タミル語、クルド語、ボスニア語さまざまな言葉が耳に入ってくる。そもそも高校生のアイダの親はアラブ人、ダナの両親はトルコのクルド人とボスニア移民なのである。高校生たちに理解を示す役所のムッセの母も、スウェーデン語を忘れタミル語しか話せなくなったインド人である。小さな田舎町にも関わらず、さまざまな民族の人々が住み、多様な価値観を持っていることが自然にわかってくる。スーパーの誘致に関しても、歓迎する人、賃金が安く組合も作れないそんな外国企業には入ってきてほしくないと反対する人など色々である。親友のアイダとダナの親同士でさえ、移民という立場こそ同じにも関わらず、生活の違いから考え方を異にしているのだ。
町のPRビデオと高校生たちのビデオを見比べると、そこから行政と住民の立場の違いが、とても鮮明に見えてくる。都合の悪いものには目をつむり、美しいところばかりを強調したい行政と、自分たちの見えるところだけで生きている住民たち。数字だけ失業率が下がれば、町に入るお金が増えさえすれば、その内実にはこだわらない行政と、雇用環境を気にする住民、雇用には関心なくただ物を安く買えることだけを喜ぶ住民たち。小さな町の出来事だが、これを広げていけば、国になる。まったく同じことが、日本も含め他の国でも起こっているのである。架空の町という設定にしたのは、単純に特定すると関係者に支障が生じるということではなくて、スウェーデンの田舎町ということに限定しない広がりをこの作品に持たせようとした、監督の意図だったのではないかと思える。第一にアイデア抜群の作品だが、それだけにとどまらない豊かさを感じさせてくれる作品になっている。
【開催概要】 トーキョーノーザンライツフェスティバル 2019
会場:ユーロスペース 会期:2019 年 2 月 9 日(土)~15(金)
主催:トーキョーノーザンライツフェスティバル実行委員会
公式サイト:http://tnlf.jp/ (スケージュール詳細はこちらから)
Face book:https://www.facebook.com/tnlfes
Twitter:https://twitter.com/tnlfes
【チケット情報】
ユーロスペース公式ウェブサイト、劇場窓口にて上映 3 日前より販売! 一般 1,500 円 学生・シニア・ユーロスペース会員 1,200 円
*ユーロスペースの火曜日サービスデー 1,200 円が適用されます。