『彼が愛したケーキ職人』イタイ・タミアさん(プロデューサー)

作り手が自己検閲する状況を乗り越えたい

ーーアナト役のサラ・アドラーさんはイスラエルでは有名な女優さんだそうですね。今年日本でも公開された『運命は踊る』にも出演されていました。

彼女に最初に話を持っていったのは、撮影開始の5年前でした。オフィルは最初から、アナト役はサラにやってもらいたいと言っていたので、私とサラは友人でしたし、私から脚本を渡したのです。「資金が集まって撮影開始になったら呼んで」と返事をもらったのですが、時間がかかり、脚本も少しずつ変わっていったので、改めて脚本を送り直しました。予算が当初の計画より減ってしまったので、ギャラも彼女がいつももらっているような額は出せないと言いましたが、脚本を気に入ってくれていたので、出演を快諾してくれました。

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ーー「運命は踊る」がイスラエルで公開された際、スポーツ・文化大臣から「イスラエルにとって有害だ」と非難されたそうですが、イスラエルには検閲があるわけではないですよね?

あまりこのことに対しては意見を言いたくないのですが、サラがそれを言ったのでしょうか?

ーー『運命は踊る』に関する資料で読みました。

最近のイスラエル政府には、映画製作をコントロールしようとしている傾向があります。政府機関である映画のファンドが資金を提供するのであれば、テーマによっては完成させるべきではないと言うのです。それが最近のイスラエル映画業界の問題で、政府からの関与があるので、作り手側が自己検閲するようになってしまったんですね。アートというのは人から管理されるべきものではありません。私はこの状況を乗り越えたいと思っています。

ーー日本でもそうですが、批判を受けないために、尖ったところのないマイルドな内容のものが多産されてしまう傾向があると思います。

そうかもしれませんね。世界全体が少し右寄りに傾いているとは思います。本で読んで知っているだけで自分が生きてたわけじゃありませんが、世の中が第一次世界大戦前のような状況になっているとは思います。ただ、政治家が勉強していないので、第一次世界大戦前の状況自体を知らなかったりもする。

ーーそんな世の中だからこそ、あらゆる世界を見せてくれる映画が果たす役割は大きいと感じます。

私がプロデュースした『赤い子牛』(第31回東京国際映画祭で上映)も是非ご覧ください。宗教的、政治的な要素がいろいろ絡んでいて、イスラエル人でも理解が難しいと言う人がいる作品ではありますが、『彼が愛したケーキ職人』とはまたテイストが違って、楽しんでもらえると思います。こういう風に映画について自由にお話できるのはとてもラッキーなことですよね。

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