国際交流基金 映像事業部 映画チーム 寺江瞳さん
今年は米国を抜き、世界一の映画市場になるとみられる中国。外国映画の公開本数に規制があり、一般市民が映画館で日本映画を見る機会は少ないが、上映会や映画祭などのイベント上映には、日本文化に関心を持つ若者たちがつめかける。今年5月には日中映画共同製作協定が施行し、日本の映画関係者の間でも大きな中国市場への関心が高まっている。
広がる日中の映画交流。海外で日本映画を紹介する取り組みを行っている独立行政法人 国際交流基金(以下、基金)はこの秋、重慶、広州、深セン、北京の4都市で日本映画上映会を開催した。チケットは発売後すぐ完売する人気ぶりだったという。同事業を担当している映像事業部映画チームの寺江瞳さんに、中国の観客の反応や、広がる日中合作の動きなどについて、お話をうかがった。
ーー今年4都市で開催した日本映画上映会は、日中平和友好条約40周年記念の事業なのですね。概要を教えてください。
寺江瞳さん(以下、寺江):重慶(10月21日〜26日)を手始めに、広州(11月9日〜11日)、深セン(11月10日〜15日)、北京(11月16日〜12月18日)の日程で、新作や過去の秀作など、各地で8〜10作品を上映しました。
基本的に、基金の映像事業部の仕事は日本映画を海外に紹介することがメインなのですが、中国に関しては、お互いの文化を紹介し合うというところまで範囲に入れています。
これまで、中国でも通常の日本映画の紹介は行っていたのですが、昨年度は日中国交正常化45周年、今年度も日中平和友好条約40周年ということで、この2年間、例年より大きな交流事業を実施してきました。
昨年度は、5月に広州で「日本映画広州上映ウィーク」を行い、『セトウツミ』など7作品を上映。大森立嗣監督たちに現地に行っていただきました。12月にも上海、深セン、昆明で「日本新作映画上映会」を行い、各都市9作品を紹介し、監督やキャストもゲストとして参加いただきました。上海の会場の一つは「大光明電影院」という1300席以上ある街の中心の大きな劇場だったのですが、2階席までいっぱいになる盛況でしたね。昨年度、中国では約2万人が来場してくれました。中国での日本映画の上映会と同時に、日本でも東京、大阪、名古屋で中国映画上映「電影2018」を実施し、最新の中国映画10作品を紹介しました。
ーーこの秋の重慶での上映は、現地の若者を中心とした実行委員会などが主催する「重慶青年映画祭」の一環ということで無料だったそうですが、その他の都市は有料とのこと。チケットの売れ行きはいかがでしたか?
寺江:中国では皆さん、基本的にチケット販売アプリで購入されるのですが、発売後、瞬時に売り切れる人気ぶりでした。
ーー『幼な子われらに生まれ』『おじいちゃん、死んじゃったって。』『家族のはなし』『カメラを止めるな!』の新作4本をはじめ、過去の秀作やアニメというラインナップです。セレクトの基準は?
寺江:日本と中国の間で、日本映画を取り巻く状況がどんどん変わってきています。今までなかなか中国で日本映画が上映できないという状況だったのに、どんどん作品が売れている。でも、売れていても、公開される作品はまだ少ない。というのは、中国にはご存じのとおり検閲があるので、すぐにそれを通るわけではないし、すごい数の中国映画が作られているので、日本映画を買っても、すぐ公開できるわけではないんです。
それで今回は、新作ばかりではなく、『楢山節考』『舟を編む』といった過去の秀作も入れてラインナップを組みました。アニメも中国側からの要望が多いので、『夜明け告げるルーのうた』を選んでいます。派手さよりも考えさせる作品を意識して選び、バラエティに富んだラインナップになりましたね。後から見ると、家族をテーマにした作品が集まってよかったです。
ーー『カメラを止めるな!』は日本でも話題になったばかり。中国の方の反応はいかがでした?
寺江:会場では笑いが絶えませんでしたね。上映が決まったとリリースした段階から既に大きな反響があって、「日本で公開されて、すぐ中国でも見られるなんて嬉しい」という声がかなり聞かれました。
ーー情報が早いですよね。
寺江:日本での『カメラを止めるな!』大ヒットは、既に「説明不要」みたいな感じでしたね。中国は多額の製作費をかけた大作が多いのに対し、低予算で爆発的にヒットするという日本ならではの作品だと思ったので、ぜひ出したいなと考えていました。