【TNLF】ミス・リーマカブルの就活
北欧の女性アニメーション監督特集
2011年02月14日(月)
テーマ曲にアバの「ウイナー( The winner Takes it All)」が使われているのが印象的だ。一流の学校を優秀な成績で出た当初は、勝者の気分。このメロディーの高揚感は、その時の彼女の気持ちを表わしている。しかし、「勝者がすべてを奪っていく 敗者は小さく立ちすくむだけ 勝者の傍らで それが彼女の運命」やがては、この歌詞の通りの敗者の気分を味わうこととなる。デザイン画を描いて持っていっても、「ネイ、ネイ、ネイ」と否定の連続、就職も断られるばかり。周りの人たちがとても優秀に見えてくる。自分は何をやりたいのか、自問自答してみても答えは出てこない。そうするうちに、次第に落ち込んで自分が見えなくなっていく。就職が厳しい、現代の日本の学生たちが見ると、身につまされるものがあるのではなかろうか。
この作品は、単純な線、白と黒の世界で構成されていて、そのタッチは、手書きのペンで描いたようにも見えるのだが、実はCGアニメーション。それが彼女の落ちていく感覚をよく表している。落ち込んでいくに従って大きくなっていく目の隈、お化粧して自信たっぷりに歩いていても、背後からついてきてブルブルと震えている「暗闇モンスター」(愛敬があって可愛いのだが、彼女の心の分身でもある)の存在。心が追いつめられると、彼女の周りをウスバカゲロウのように取り囲むモヤモヤとした影。
日本では鬱病が増え、自殺者が年間3万人を超えるという。世界統計で比較してみると、人口比率でワースト6位だ。世界幸福度ランキング第7位のスウェーデンでもこんな問題があるのだろうかと初めは訝しく思ったのだが、意外や、幸福度7位の割には決して優秀とは言えないワースト30位なのである。
うつ病の原因は「他人のせい」というようなことが言われている。他人が自分に期待することと自身の力とのギャップ。あるいは他人が自分にこんな期待をしているのではないかという思い込み、自分は他人とは違うのだというヘンな優越感、自分がやらなくては、世界が廻らないのだという極端な責任感。この作品を観ていると、まさに彼女は常に他人ばかりを気にしている。「私は人と違うのよ」「あなたは人と違うのですよ」それでいて、自分は何者なのかを答えることはできない。閉じこもったり、化粧を濃くして出直したりを繰り返していくうちに、最後は死の淵にまで追い詰められてしまう。精神とは、ゴムのようなもので、延びたり縮んだりを繰り返しながらも普通は元に戻っていく。けれども限界を超えたときにゴムは、はじけて裂けてしまうものなのだ。彼女の挫折と、再生していく物語に、こうした問題への対処方法のヒントが埋め込まれているように思えた。
Text by藤澤 貞彦
オススメ度★★★★☆
【原題】Froken Markvardig & Karriaren
【英題】Miss Remarkable and her Career
【監督】ヨアンナ・ルービン・ドランゲル2010年 スウェーデン、デンマーク他 29分
2DCGアニメーション
公式サイト:トーキョーノーザンライツフェスティバル
2011年2月14日
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