【FILMeX】エルサレムの路面電車 (特別招待作品)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

【作品紹介】

様々な民族がモザイク状に混在して居住するエルサレムを東西に走る路面電車を舞台に、オムニバス風に緩やかにつながる幾つかのエピソードをコミカルに見せる作品。マチュー・アマルリックが外国人観光客の役で出演している。ヴェネチア映画祭で上映された。(東京フィルメックス公式サイトより)

【クロスレビュー】

藤澤貞彦/マチューさんまたやらかしてくれました度:★★★★☆

ラビたちが、教義の解釈を巡って議論する。民族楽器の音色を観光客(マチュー・アマルリック)が楽しむ。路面電車の中は、常に音楽と会話で溢れている。そのバラエティさ。西エルサレムの郊外から旧市街地をかすめるように通り過ぎ、東エルサレムにまで伸びる路面電車。カメラは決してこの外に出ることはない。ムスリム、ユダヤ教徒、キリスト教徒、観光客、さまざまな人たちが、乗っては、降りていく。観光スポットやマーケット、市庁舎などを通り過ぎていくこの乗り物は、ある意味、旧市街地以上にイスラエルそのものかもしれない。パレスチナ人とユダヤ人が会話するかと思えば、乗客同士が一触触発の手前までいったりもする。無責任な観光客マチュー・アマルリックが不用意なことをして窮地に陥るのが、可笑しくて仕方がないが、これもヨーロッパ人など第三者がイスラエルに対して、勝手なことを言っていることへの皮肉なのかもしれない。

外山香織/サッカーサポは何処でも同じだ度:★★★★★

様々な人々が交錯する路面電車という空間。結婚のために改宗した妻とのエピソードを話す夫、イスラエル軍の話をしたがるユダヤ人と観光客との絡み、ユダヤ人とパレスチナ人との同僚同士の会話など、この都市の持つ複雑な要素が浮き彫りにされる。ユダヤ人とパレスチナ人という対立軸にとらわれず多面的な視点で捉えてゆくのだ。路面電車内で時折流される停留所の案内もエルサレムならではで(当たり前だが)、それが流れを区切るちょっとしたアクセントになっているのも面白い。個人的にハマったのはイスラエルのサッカーチームの新監督&地元のコーチ&インタビュアーとの場面。何が良いかって、サポーターたちが路面電車に乗っても監督らそっちのけで歌を歌ったり騒いだりしているところだ。「車も、家も、妻さえも変えられる。だが、応援するフットボールチームだけは変えることができない。」とはアルゼンチンの元サッカー選手・指導者のオズワルド・アルディレスの言葉だが、全くその通りで、国がどうだろうと宗教がどうだろうとサポーターというのはいつでもどこでもこんな感じなのだと思い知らされる。私自身も応援するチームがあるので、このエピソードを加えた監督の思いがわかる気がした。


▼第19回東京フィルメックス▼
期間:2017年11月17日(土)〜11月25日(日)
【メイン会場】有楽町朝日ホール(有楽町マリオン)11/18(日)〜11/25(日)
【オープニング/レイトショー会場】TOHOシネマズ 日比谷11/17(土)〜11/25(日)
【特別上映会場】有楽町スバル座 (11/17(土),11/18(日)のみ)
【併催事業:人材育成ワークショップ】
11/19(月)〜11/24(土) 有楽町朝日スクエアB
主催:特定非営利活動法人東京フィルメックス実行委員会
共催:朝日新聞社
公式サイト: https://filmex.jp/2018/

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