【FILMeX】象は静かに座っている(コンペティション)
【作品紹介】
中国北部の地方都市に暮らす4人の登場人物たちの1日を4時間弱の長尺で描き、世界を驚かせた作品。ベルリン映画祭フォーラム部門で上映されて国際批評家連盟賞を受賞したが、監督のフー・ボーは本作を撮り終えた後に自ら命を絶った。(東京フィルメックス公式サイトより)
【クロスレビュー】
富田優子/とてつもなく息苦しい作品度:★★★★★
恐ろしいくらいの閉塞感に覆われた作品だ。4人の人物のある1日を描く物語だが、人間の不幸を見逃すものかとばかりに、灰色の空の下、カメラは彼らを執拗に追う。生気のない彼らの顔をひたすら撮り続ける。しかし特筆すべきは、ただ撮り続けるだけではなく、物語の構成-特に4人の関係性-が緻密であることだ。監督が小説家でもあったということが作品に息づいているようで、そこに監督の才能を大いに感じた。
今や世界第2位の経済大国となった中国だが、都市部と地方の格差は拡大する一方。自分のことで疲弊し、他人を気遣うゆとりや想像力はない。簡単に「殺すぞ」と口にするなど、命の軽さも気味が悪い。彼らに共通しているのは、「こうなったのはお前のせいだ」と現状を他人に責任転嫁している点だ。もちろん、彼らの苦境には本人だけでは如何ともしがたい理由-経済的事情や家庭環境等-があるのは事実だ。でもそれが自分を正当化する言い訳にはならないはず。誰かのせいにして生きるしかない状況が息苦しい。経済発展にとり残され、厳しい社会で生きざるを得ない人々に蔓延する絶望感を、今は亡き監督は伝えたかったのだろう。そんな彼らの心の拠りどころになるのが、「象」だ。都市伝説のような存在に縋る人々に未来はあるのか。人生とは何のためにあるのか。様々な問いに思いを巡らせ、ラストの咆哮にやるせない思いを増幅させられる作品だ。
藤澤貞彦/人生は止まってしまったら終わりなのよ度:★★★★★
大きくて毛並みの艶々した白い犬と、小さくて少々汚れている老犬が道で迷っていたとしたら…フー・ボー監督は、躊躇することなく後者を拾っていく人だったのだろう。道端で途方に暮れる人がいたら、目に留めてしまう人だったのだろう。周りから邪魔扱いされている4人の主人公もある意味、道端側の人たちだ。画面が歪もうが、会話する相手がボケようともお構いなく、広角カメラで主人公たちに肉薄していく。4時間近い長さの作品ではあるが、画面には無駄なものは写されない。ワン・シーン、ワンカットに近いくらいの長回しで、彼らの動きを追っていく。周りからはみ出し、さえない彼らの中に、それでも光を見出そうとする。やくざものの男の中から良心の呵責を拾い、いじめられっ子の中から、誠実さを拾い出す。無駄を認めないような社会のシステム、誠実に生きようとしても、生きられない世界の息苦しさが彼らを押しつぶす。人生はどこへ行っても何も変わらないものなのだろうか。止まってしまったら人生は終わりなのではなかろうか。何をされても静かに座っている象。諦めは心の平穏をもたらすものなのか。絞り出すような象の啼き声が暗闇を裂く。そのことの意味。闇の向こうが見えなくても、彼らは前に進んでいく。そうしなければ、人生は絶望だけになってしまうとでも言うかのように。
▼第19回東京フィルメックス▼
【期間】2017年11月17日(土)〜11月25日(日)
【メイン会場】有楽町朝日ホール(有楽町マリオン)11/18(日)〜11/25(日)
【オープニング/レイトショー会場】TOHOシネマズ 日比谷11/17(土)〜11/25(日)
【特別上映会場】有楽町スバル座 (11/17(土),11/18(日)のみ)
【併催事業:人材育成ワークショップ】
11/19(月)〜11/24(土) 有楽町朝日スクエアB
主催:特定非営利活動法人東京フィルメックス実行委員会
共催:朝日新聞社
公式サイト: https://filmex.jp/2018/