【TIFF】ザ・リバー(コンペティション)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

作品紹介

© Films Boutique

文明から隔絶された辺境の地で暮らす5人の兄弟。家の仕事を一緒にこなし仲良く河で遊ぶ。しかし平穏な日々は都会から来た少年の登場で崩れてゆく。カザフ注目のアーティスト監督がシャープな構図と独特の世界観で綴る映像詩。

クロスレビュー

藤澤貞彦/この世界の片隅の、壮大な世界度:★★★★★

枯れた大地に突然現れる大きな川。その急な流れに恐怖感を覚えるが、5人の兄弟たちは臆せず川を泳いでいく。いや、泳ぐというよりは、上流から下流に流されているようにしか見えないのだが。父親にその存在さえ教えてもらえなかったその川は、子供たちの秘密の場所。彼らの希望であり、彼らの夢を表している。しかし彼らは向こう岸に着くことはない。乾いた大地にポツンと立つ家。そこは世界から隔絶されている場所。時代の感覚さえ失われたところ。そこに都会から彼らの従兄弟がやってくる。未来から突然現れたかとでもいうかのように。銀色に輝く服を着て。彼が来ることによって兄弟たちの暮らしがガラリと変わる。テレビから世界情勢や近代の歴史を伝える映像と音が流れる。ゲームの電子音が鳴り響くと、彼らは架空の世界で牛を育てることに夢中になる。従兄弟が現れたり、行方がわからなくなったり。その度に兄弟たちの力関係が変わっていくのがスリリングだ。これは子供たちの姿に託したひとつの現代文明論。美しい映像の裏にはさまざまな象徴的意味が与えられ、この映画の世界は無限の広がりを見せていく。

富田優子:小さな世界の大きな葛藤を載せた、綿密な映像美が圧巻度:★★★★★

辺境の地に暮らす5人の兄弟。13歳の長兄アスランは弟たちに仕事の指示を出し、仕事が終われば全員で川へ泳ぎに行く。その川は美しいが、彼らと文明とを遮断するかのような激しい流れだ。そんな慎ましくも単調な生活に、都会から親戚の少年カナトが突如現れる。文明社会の象徴のような彼の登場は刺激的で、アスラン以外の4人はゲームに夢中になり、兄弟のパワーバランスに変化が生じる。アスランの指示を聞かなくなり、仕事も疎かになる。アスランがカナトへの明確な憎悪の感情を抱いたのは、カナトが川に放尿した瞬間だろう。自分たちを世界から守ってくれている川を汚されたように感じたはずだ。ところがカナトが行方不明となり、物語はサスペンス調に。秘密と嘘と罪悪感を抱えたまま生きていくのには、彼らはまだ若い(というより幼い)。彼らを葛藤から誰が救ってくれるのか・・・。だがラスト、川を前にした5人の後ろ姿に、川は彼らを許し、これからも守っていくのであろう・・・という穏やかな余韻がたまらなく素敵だ。小さな世界の大きな葛藤を載せた、計算され尽くした緻密な映像美に酔いしれた。

ささきまり/長男アスランの顔立ちがとても織田信成さんだった度:★★★★★

俗世から遠く離れた広大な砂漠、その真ん中にぽつんと立つ白壁の一軒家。ベージュを基調にした風景の中で男の子ばかりの5人兄弟が描き出す動線は、計算し尽くされたモダンダンスのように均整がとれていて、それだけでもずっと観ていられそうな映像美である。けれど、ある日突然現れた「いとこ」の少年と、彼が持ち込んだタブレットによって、そのバランスは少しずつ崩れていく。彼らの姿は、ガラパゴスな環境に異文化の刺激が流れ込んで古き良き秩序を失っていくさまを擬人化しているようにも見えた。けれども、やがて彼らの中から「ほんとうのことを言おう」という自浄的な言葉が出てくるところに希望の視点がある。タイトルロールでもある「川」は、なにが起きても彼ら見守るように淡々と流れ続け、傷ついた彼らがまた身を寄せ合うように肩をならべる川岸のラストシーンには不思議な多幸感があった。



第31回東京国際映画祭
会期:平成30年10月25日(木)~11月3日(土・祝)
会場:六本木ヒルズ、EXシアター六本木(港区) ほか都内の各劇場および施設・ホールを使用
公式サイト:https://2018.tiff-jp.net/ja/

エミール・バイガジン監督(2018年10月28日Q&Aより)

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