「トスカーナの贋作」実力派女優に幻惑される贅沢
2011年02月12日(土)
イタリア・トスカーナの薄暗いギャラリー。ブラの肩紐も露わなスリップドレス姿でオーナー役のジュリエット・ビノシュが微笑む。目の前には、魅力的な男性がいる。彼女の姿態は、確信犯的な誘惑の準備態勢か?はたまた、持って生まれたコケットリーか?その真意は見えないまでも、同性から見ればなんとも「いけ好かない」「あなどれない」、女のいやらしいところを丸ごと集めたような主人公。それが『トスカーナの贋作』のビノシュである。
南トスカーナにある小さな街アレッツォに、イギリスの作家(ウィリアム・シメル)が講演に訪れた。ギャラリーのフランス人経営者(ビノシュ)に出会い、ドライブに出かけた二人は、芸術においてのオリジナルと贋作について議論を戦わせる。休憩に立ち寄ったカフェで、女主人に本物の夫婦と間違われたことから、二人は長年連れ添った夫婦のように振舞い始めるが、次第にその関係には変化が生じていく。
何が現実で、どこからが虚構なのか。境界線を見失う主人公を、ビノシュは演技力に裏打ちされた圧倒的な“妖気”と押しの強さで演じる。ぐいぐい、押してくる。一体、この女はどんな日常を生きているのだろう?満たされているのか、それとも欲求不満の中年女性なのか?ジュリエット・ビノシュという女優は都会の洗練された女よりも、もっと田舎くさい、土着の生命力を感じさせる女の役がよく似合う。それゆえ、男性を求める、飲み込まんとする迫力は別次元。こんなイメージに、『トスカーナの贋作』では衣装や小物の素材感が素晴らしくマッチしている。劇中で取り去るブラは、「ヨレっとしていそうだなぁ」という邪推どおり見事に萎びた感じだし、ほんのり汗の香りまで伝えてくるよう。無機質なセクシーさとは違い、生々しいまでに女が臭う。
爽やかなトスカーナの風景に、しっとりとしたエロティシズムで湿度が加わる。「今夜9時までには帰らなければならない」―男が女に告げる時刻を、二人はどんな形で迎えるのか。女は暫しの空想を遊んだだけなのか、いや待て、この二人、もともと知り合いだったりして。今作は、普通の映画であれば早々にクリアにされるべき基本設定すら明かされない。イランの巨匠アッバス・キアロスタミ監督が母国を離れて撮った初めての長編劇映画は、挑戦的な仕掛けと熟練の落ち着きに満ちた大人のラブストーリーだ。
Text by:新田理恵
オススメ度★★★★☆
2月19日(土)より、ユーロスペースにて公開!(全国順次)
(C)Laurent Thurin-Nal / MK2
【原題】Copie Conforme
【監督・脚本】アッバス・キアロスタミ
【撮影監督】ルカ・ビガッツィ
【出演】ジュリエット・ビノシュ/ウィリアム・シメル
2010年/フランス・イタリア合作/106分
2011年2月12日
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