【TIFF】ヒストリー・レッスン(コンペティション)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

作品紹介

ベテラン女性教師ヴェロは、転校生エヴァの反抗的な態度にうろたえる。エヴァは図々しくヴェロの生活に侵入し、やがてふたりの間に奇妙な友情が芽生えて行く。世代を越えた交流を描き、ふたりの女優が絶妙の相性を見せる感動作。

クロスレビュー

藤澤貞彦/命短し、恋せよ乙女度:★★★☆☆

60歳を迎える女教師ヴェラと、反抗的な生徒エヴァの奇妙な友情。これはエヴゥ(アダムとイヴのイヴが元。命ある者の意)の存在によってヴェラ(ヴェロニカ。真の姿の意)が自分の本当の姿を発見していく物語。いかにも女性教師といった堅苦しい洋服を脱ぎ、眼鏡をはずしたヴェラは、次第に自分の心も裸にしていく。ヒストリー・レッスンとはヴェラが歴史教師ということだけでなく、2人の女性の人生のヒストリーを辿ること。エヴァの父親のお墓と彼女が幼いころ父に連れて行ってもらった、御伽噺の山への旅。そこでは若さと老いと死が交差する。ヴェラの見る夢の中の洞窟、遊園地の廃墟に佇む恐竜のお腹の中、山にぽっかりと空いた洞窟。そこを辿る道筋は、まるで子宮の奥へ奥へと入っていくような感覚さえある。自分の内側を見つけた時、2人の年齢の差は喪失する。生、老い、死は地続きなのだ。しかし生きていくなかでそれらは見失われていくもの。ヴェラはこの旅でそれを同時に見つけたのかもしれない。

富田優子/女性二人の親密な関係になる過程の丁寧度:★★★☆☆

初老の女性教師ヴェラは転校生の不良少女エヴァに振り回されるが、やがて彼女たちの間に信頼が育まれ、大切な存在に変わっていく。反発し合う者同士や年齢差のある者同士の交流は、決して真新しい題材ではないが、二人の女優の好演が本作を支えている。彼女たちが親密な関係になっていく象徴として、タバコとコカ・コーラが印象的に使われている。ともに口に含むもので、最初は間接キス(?)を避けるためか、勧めても断っていたが、次第に平然と回し飲みをするように。そのような丁寧な描写が良い(記者会見でコカ・コーラの意図を質問したところ、エルナンデス監督が大のコカ・コーラ好きだという)。ただ後半、二人のロードムービーに転じていくが、この部分のやや間延びした感が、惜しい。メキシコ南部の雄大な乾いた大地の光景は興味深かったのだけど。

杉本結/1粒で2度美味しい度:★★★☆☆

引退間近の歴史教師ヴェロのクラスに転校してきたエヴァ。ヴェロはクラスに馴染むことが出来ず孤立している彼女を気にかけるがある事件が起きる。前半は登場人物の紹介やヴェロとエヴァが抱える個々の問題が少しずつ明らかになってゆくドラマだが後半は2人が抱える問題を軸に生と死というテーマに向かって走るロードムービーへと変化していく。前半は他人からみえる彼女たちを傍観している観客が後半では2人の内面的な深い部分へと入り込むようなかたちとなる。この二段構えの構造になっていることでまるで最初に乗った電車がいつの間にか違う路線を走り始めたような違和感を感じる。しかし、作品を彩る音楽がうまくその違和感を感じないように調和してくれている。生と死をみつめるというよくあるテーマの映画だがこんな角度からもみえるのかという新たな発見ができた。



第31回東京国際映画祭
会期:平成30年10月25日(木)~11月3日(土・祝)
会場:六本木ヒルズ、EXシアター六本木(港区) ほか都内の各劇場および施設・ホールを使用
公式サイト:https://2018.tiff-jp.net/ja/

ヴェラ役のべロニカ・ランガー(2018年10月30日Q&Aより)

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