【TIFF】テルアビブ・オン・ファイア(コンペティション)
作品紹介
パレスチナの女スパイがイスラエル将校と恋に落ちる昼ドラが大ヒットしている。制作現場に入るパレスチナ人AD青年は、ふとしたことでイスラエルの検問官から脚本の着想をもらうが…。複雑な中東情勢をコメディで楽しむ極上エンタメ。
クロスレビュー
藤澤貞彦/視聴者は神様です度:★★★☆☆
「テルアビブ・オン・ファイア」という人気ドラマの脚本を、イスラエルの検問所の主任が自分の好きなように書き換えていく、というお話自体は、マフィアの一員が脚本を代筆するという、ウディ・アレン監督『ブロードウェイと銃弾』のような先行作品があるにはあるのだが、脚本家がパレスチナ人、場所がイスラエルとなると、事情が違ってくる。脚本家がイスラエルの軍人に媚びつつ、かつパレスチナ人としての誇りを失わず、スポンサーや製作者、我儘なフランス人女優にまで気を遣いながら、誰もが満足するような結末に向かってストーリーを進めていくのだが、その過程がとても可笑しい。同時にそれだけでなく、ドラマの時代1967年と現代のイスラエルの状況を1本で繋げていくというアイデア、その脚本が見事である。ドラマのシーンのいかにもチープな造りと、現実のシーンのリアルさの対比も作品に説得力を持たせている。パレスチナが置かれた状況を笑いながら理解できる、こうした作品が一般公開されればいいのだが。
外山香織/より多くの国での公開を望む度:★★★★★
テルアビブという都市の名は聞いたことはあれど、その地がどんな状況なのかということを理解している日本人は少ないのではないか。イスラエルの中のパレスチナ、占領、検問、そして「フムス」という食べ物が象徴するもの。昼のメロドラマとは言え、彼らには簡単に着地できない過去と現実があるということ。この映画を観ればそれらがとても良く分かる。しかし本作は決して小難しい内容ではなく、主人公であるパレスチナ人青年がADから真の脚本家になるまでの成長やロマンスを盛り込んだコミカルな青春物語でもあり、見せ方がとても巧い。「愛し合うふたりは何をする?相手の話を聞くことだ」。脚本のアドバイスをするイスラエル人検問官が主人公に語るこの言葉が、問題を解決に導くキイになっている。「相手」とはイスラエル人でありパレスチナ人であり、双方の話を「聞く」ことは「汲む」ことでもある。もちろん真の解決は簡単なことではない。が、だからこそこのような映画が多くの国や地域で公開されてほしいと願う。
鈴木こより/この脚本家のような政治家がいればいいのに!度:★★★★★
イスラエル人とパレスチナ人が同じメロドラマに夢中になって、結末に注目している。主人公の脚本家は優柔不断に見えるけど、双方の意見をうまく取り入れながらなんとかラストの落とし所を見出していく。彼が天才と言われるゆえんは脚本の技術ではなく、この手腕にあるのがミソ。独裁者のような政治家が幅をきかせているが、この脚本家のような政治家がいたらいいのにと唸らされる。ドラマのヒロインにフランス人女優を起用しているのは、監督が双方を取り持つフランスの外交に期待していることの表れだろうか。コメディだけど芯のある力強い映画だと思う。
第31回東京国際映画祭
会期:平成30年10月25日(木)~11月3日(土・祝)
会場:六本木ヒルズ、EXシアター六本木(港区) ほか都内の各劇場および施設・ホールを使用
公式サイト:https://2018.tiff-jp.net/ja/