(ライターブログ)ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞の「ドナテッロ」って!?

華麗なるダヴィデ【映画の中のアート #17 】

日本で公開されるイタリア映画の予告編などを観ると、よく「ダヴィッド・ディ・ドナテッロ」受賞作、という言葉を耳にしますね。イタリア版「アカデミー賞」とも呼ばれるこの賞。2018年に第62回を迎え、最近の作品賞では2018年度『愛と銃弾』アントニオ&マルコ・マネッティ監督、2017年度『歓びのトスカーナ』(パオロ・ヴィルツィ監督)、2016年度『グランドフィナーレ』(パオロ・ソレンティーノ監督)などなど。ほか、『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』や『いつだってやめられる』シリーズなども各賞を受賞しています。

ところで、この「ダヴィッド・ディ・ドナテッロ」ってどのような意味なのか知っていますか?日本語で言えば「ドナテッロのダヴィデ」。そう、受賞者に送られる像がまさにそれなのです。ダヴィデは、のちにイスラエルの王となる、旧約聖書に登場する人物ですね。彼はまだ羊飼いだった少年の頃、敵であるぺリシテ人のゴリアテを投石で倒した英雄。絵画や彫刻では、切り落としたゴリアテの首とセットで表されることが多いですね。ですので、勝利者(受賞者)に送られる像としてはふさわしい英雄だと思います。じゃあ、ドナテッロって……? 今回はそのあたりをご紹介したいと思います。

ドナテッロ「ダヴィデ」

ドナテッロ(ドナート・ディ・バルディ)は初期イタリア・ルネサンスを代表する彫刻家。1386年頃にフィレンツェで生まれ、1466年に亡くなっています。ミケランジェロが1475年生まれなので、大体どれくらい前か分かりますね。ドナテッロのダヴィデは大理石のものとブロンズのものがありますが、ドナテッロ賞の像は後者の「ダヴィデ」(制作時期1430年代)です。詳しく見てみましょう。長髪の華奢な少年が剣を手にし、兜を付けた男の首を左脚で踏みつけています。右脚に重心をかけたコントラポストで、腰に左手をあてた勝利のポーズは、甘美なあどけなさを感じます。しかし、身に付けているのが帽子と脛当てのみというのは不思議ですよね。今で言えば、帽子と靴下だけであとは裸ってことですよ……なんか気恥ずかしくないですか? そして多くの人はこう思うのではないでしょうか。「ミケランジェロのダヴィデと違いすぎる」と。

ミケランジェロ「ダヴィデ」

そうなのです。後世の私たちには、あまりにもミケランジェロの作ったダヴィデ像(1504)の印象が強すぎるのです。が、そもそもの「ゴリアテを倒したダヴィデ」は羊飼いの少年であり、投石器で石を投げただけで敵を倒すなんて「まさか!ありえない!」んですよ。そのミラクルが起きたからこそ、彼は英雄であり神のご加護が働いたとも言えるわけです。だから少年の姿というのがデフォルトで、敵を倒した後の勝利の姿がダヴィデのイメージとしては先行していたのです。もうひとつ、ドナテッロの作品の後に作られたヴェロッキオ(1435頃-88)のダヴィデ像(1470年代)を見てみましょう。

ヴェロッキオ「ダヴィデ」

こちらはすらっとした短髪の美少年で(服は着ていますが)、足元にはやはり敵の首が転がっています。実はこのヴェロッキオはレオナルド・ダ・ヴィンチの師匠としても知られる人物で、このダヴィデはレオナルドがモデルではとも言われています。……と、言うことはですね。筋骨隆々の青年がこれから倒そうとする敵を睨み付けるミケランジェロのダヴィデが当時いかに革新的だったかということが、お分かりいただけるかと思います。

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