『1987、ある闘いの真実』チャン・ジュナン監督インタビュー

「その真実をなぜ誰も伝えないのだろうか?」30年前に抱いた疑問

一介の市民が声を上げたところで、世の中を変えることなどできるのだろうか?ーー社会や政治について無関心な人の心には、こんな諦念が定着している。

今からたった31年前、隣の韓国では、学生たちを中心に、一般市民が強力な軍時独裁政権を相手に立ち上がり、民主化を求める活動を展開して勝利した。ソウルオリンピックの前年、1987年のこと。つい最近の話であり、ほんの30年前に隣国を大きく揺るがした事件であるが、日本ではもちろん、韓国でもその事実はあまり語られてこなかった。

この民主化運動の全貌を描いた映画『1987、ある闘いの真実』が公開中だ。メガホンを取ったチャン・ジュナン監督は、「同じ民主化運動である1980年の光州事件をモチーフにした作品はあるが、1987年のこの事件については文学界も映画界も扱ってこなかった」と語る。30年後にこの事件を映画が語ることは、どんな変化を示しているのか?来日したチャン監督にお話を聞いた。

『1987、ある闘いの真実』より


【韓国民主化闘争】
ソウルオリンピックを目前に控え、北朝鮮の攻撃を恐れる時の全斗煥(チョン・ドゥファン)軍事独裁政権は、反政府活動の取り締まりを強化。1987年1月、ソウル大学の学生パク・ジョンチョルが反政府活動を行っていたとして逮捕され、拷問を受けた末に死亡。警察は「ショック死」と嘘の死因を発表するが、司法解剖の担当医師が真の死因を証言し、大勢の大学生らがこの事件に抗議するデモを展開する。同年6月、抗議デモに参加していた延世大学の学生が、警察がデモ鎮圧のために発砲した催涙弾に被弾。政権に対する国民の不満が爆発し、全斗煥は大統領退陣に追い込まれる。


〈インタビュー〉
——この映画の企画の立ち上がりから教えてください。

最初に脚本の初稿を見せてもらったのは2015年の冬で、非常に面白い企画だと思いました。1987年というのは、軍事独裁権力から非常に多くの権利を市民が勝ち取った韓国現代史において非常に重要な年です。にもかかわらず、1980年の光州事件については扱っている小説や映画があるのに、この年の出来事については、文学界も映画界も、誰も扱ってこなかった。非常にもどかしさを感じていました。

私がこれまでに手がけた作品は、『ファイ悪魔に育てられた少年』(2013年)のように、人間の本質的な部分を顕微鏡で見つめるようなものが多かったのですが、自分に子供ができて、子育てをしているうちに、社会的な事柄に関心を持つようになりました。次の世代に、どういう世の中を残してあげることができるのか、考えるようになったんですね。そういう流れから、1980年代という純粋かつ熾烈であった時代に、多くの主人公が集まって歴史の流れを変化させた足跡を、映画化したいと思うようになったのです。

けれども、その当時は朴槿恵(パク・クネ)政権下でしたので、このような映画をつくって、きちんと観客に届けることができるのだろうか? と心配でもありました(*)。延世(ヨンセ)大学がある新村(シンチョン)という地域に、催涙弾に当たって命を落とした学生イ・ハニョルさんの記念館があるのですが、悩んでいたとき、そこに展示されている服や靴などを見て、この映画に挑戦しようと決心しました。

*朴槿恵前政権は、映画関係者を含む政府に批判的な文化人の「ブラックリスト」を密かに作成し、圧力をかけていた

——監督は事件当時、高校生だったと思います。運動をどのように受け取り、その記憶を作品に生かしたのでしょうか?

当時、私は高校3年生で、大学入試を控えていました。登下校時や授業中に催涙弾の煙が流れ込んでくるような時代でした。「大学生のお兄さんお姉さんたちは、なぜあんなに闘っているのか?」という好奇心や、知りたいという気持ちがあったことを覚えています。重要な記憶として残っているのが、友人から「近所のカトリック教会で不思議なビデオを見せてくれる」という噂を聞きつけ、見に行こうと誘われたのです。その時に見たビデオが、映画の中で女子大生のヨニが見たような、光州事件(*)についてのビデオでした。非常に大きな衝撃を受けました。本当にあんなことが起きたのだろうか? 起きたとすれば、その真実をなぜ誰も伝えないのだろうか? 教会から出たあと、そのおぞましい現実を突きつけられ、非常に怖いと感じたのです。その強烈な記憶が、この作品を作る種子になったのではと思っています。

*光州事件…民主化を求める学生と市民の声が高まり、事態を強硬に収めようとした韓国政府は1980年5月18日、韓国全土に非常戒厳令を拡大。しかし、南西部の光州で軍事政権に反対するデモ隊の暴動が起こり、鎮圧に乗り出した韓国軍による弾圧で多数の死傷者を出した

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