喜劇映画のビタミンPART8突貫レディ『荒武者キートン』

時代考証、ギャグ、アクション、キートンのこだわりを新野敏也さんが徹底解説

時代考証、ギャグ、アクションから見えてくる、キートンのこだわり

 長編第1作ということで、とにかく凝っています。映画の舞台となった1830年代に徹底的にこだわり、細かいところまで緻密に作っております。この映画の最大のギャグは時代考証ではないかというほどです。ただ凝りすぎていて、1920年代当時でさえ誰もギャグとして受け取らないで素通りしていたのではないかというところが結構ありますので、そのへんを含めてちょっと説明させていただきます。

⑴ 照明へのこだわり
 この作品で初めて照明技師という職業がタイトルに表記されています。これまでの映画ですと、キートンの作品に限らず、照明技師というのは、美術かカメラマンの助手扱いで、タイトルにはクレジットされていません。今では照明技師はカメラマンと同様スタッフの一員としてクレジットされているのが当たり前ですが、この作品以前ですと、基本的にはカメラマンの助手として、例えばこの鍵盤を光るようにしてくれと言われて、光を当てる係として照明さんがいるという程度に考えられていました。

確かに1930年代、40年代の安手のB級映画ですと、照明をいい加減に当てていますので1人の人間に影がいくつも出ているものもあるのですが、この作品は今の映画と同じように照明を綺麗に、効果的に使っております。ロウソクを消すタイミングで照明が消されたり、稲妻のスパークを炭素棒の電極をショートして再現したり、昼間のシーンでは、室内にきれいに日の光が差し込んでいるかのように照明を当てたりしています。暖炉のユラユラした火の加減は照明の前で布を揺らして感じを出しております。
光の効果ということでは、暗闇の中で2人の男が鉄砲を打ち合う時に、火花がフラッシュするのですが、それが下に垂れているのが見て取れます。これは黒色火薬特有の燃え方です。普通の火薬を使わずに、1920年代ではもう使われなくなった黒色火薬をわざわざ使い、その火花の出方から1830年代を再現しているのです。バニラさんが先ほど語っていましたけれども、この当時のピストルは連発が出来ない、前から火薬を詰めて弾を詰めて、それからくしゃくしゃにした紙でフタをして飛ばすのですが、その辺りもきちんと再現されていて、稲妻の明滅と暗闇の発砲を効果的に対比させるなど、すごく細かいなぁと思いました。


⑵ 小道具、大道具へのこだわり

ドライジーネ型自転車
キートンが乗る自転車は、ドライジーネ型自転車というもので、最初ドイツで発明されました。イギリスで改良された時に初めてブレーキがついて、ホビーホースという呼び名に変わっております。ハンドルとブレーキが共用なのですが、車輪も木でできております。ゴムのタイヤは発明されていなかったのですね。これも忠実に再現されております。故障もすごく多かったみたいです。ましてや舗装路ではなくガタボコの道を走りましたので、乗り心地は最低だったようです。今でいうキックボードと同じように自分で地面を蹴って進みますので、遊びで乗っていたものだとは思うのですが。

この自転車は映画が公開された直後にアメリカのスミソニアン博物館に、展示用として永久貸し出しされました。正式にキートンが契約書を交わし、現在も飾られております。日本では1988年、池袋西武にあった西武美術館でハリウッド展をやった際に、スミソニアン博物館からこの自転車を借りてきて展示しております。実際このシーンの写真が大きくパネルで飾ってあって、その前に自転車の現物が置いてあったのですが、サドルの形が違うのでインチキじゃないかと当時は思いました。けれども、撮影用に複数作られていたはずですし、キートンのプロダクションの証明も付いていたので、本物だったようです。

初期の蒸気機関車(ロケット号)
ニューヨークから故郷である南部の田舎町に、キートンは機関車に乗って帰っていくのですが、レールの幅も含めてこの当時の機関車をそっくりそのまま作っております。機関車が走っていくと沢山見物する人がいるという風景も、当時の再現ですね。レールがわざわざ木の上に敷いてあったりとか、橋も昔からそこにあったかのようなものを川の上に作ったりとか、セットも実に緻密です。これは1830年代の機関車を借りてきたわけではなく、撮影用に作った機関車です。

 この機関車は翌年、キートンと仲の良かったアル・セント・ジョンという役者が、ジョン・フォードの『アイアン・ホース』をパロディにした『The Iron Mule(鉄のロバ)』という作品を作りまして、そのために貸し出されました。その作品を観ると、機関車を川の中で走らせたりしていましたので、錆びついてもうダメになっちゃったのではないかなと思っております。

氷入りカクテル
 裕福な敵役の父親が、氷入りのカクテルを飲むシーンがあります。多分セザラックという南部で流行したカクテルです。1830年前後、家庭用の製氷機が発明されて、裕福な家庭では飲み物に、病気の時に冷やすために、氷が使えるようになりました。この映画では製氷機も出てこなければ、何の説明もないままそれが出てきますので、恐らく1923年に初めてこの作品を観た観客は、氷入りカクテルが意味するところをすっ飛ばして観ていたのではないかと思います。

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