柳下美恵のピアノdeシネマ2018「マック・セネット特集」

マック・セネットと喜劇の黄金時代 解説:新野敏也さん

『ハイ、笑って』Smile Please
1924年 [アメリカ映画/DVD/19分]
製作:マック・セネット、監督:ロイ・デル・ルース
監修:F・リチョード・ジョーンズ、脚本(題字):ジョン・A・ウォードロン
撮影:ジョージ・スペア、特殊効果:アーニー・クロケット
マック・セネット・コメディズ=パテ・エクスチェンジ作品
日本語字幕:石野たき子
出演:ハリー・ラングドン(写真師 兼 保安官)、アルベルタ・ヴォーン(カノジョ)、ジャック・クーパー(恋敵)、マデリン・ハーロック、ルイズ・カーヴァー、ビリー・アームストロング、ジャッキー・ルーカス、カメオ(犬)

新野敏也さん解説とトーク・ショー

「ハリー・ラングドンは本当に不器用な人だったの?」

ハリー・ラングドンと子役のジャッキー・ルーカス

これは、マック・セネットが1920年代に育てましたハリー・ラングドンという人の映画です。この作品は日本で未公開だったために、私のほうで原題を直訳してタイトルを付けたものです。マック・セネットは長編が主流の時代になってからも、このような短編を作っていました。そして相変わらず、雑な作りなのですね(笑)とにかく荒唐無稽というか、支離滅裂というか、一体どういう発想をしているのだろうというのが、彼の特徴的なところです。

ハリー・ラングドンは、最初はステージで活動していたのですが、演目がルーティンに陥り落ちぶれていきました。その後、彼と契約した映画会社があったのですが、まったく売れずにもてあまし、いよいよどうしようというところで、マック・セネットに拾われます。この作品はデビューから2作目になりますが、大ヒットとなり、彼は一躍人気者になります。彼を育てたのは、フランク・キャプラです。この作品では、キャプラはクレジットには載っていないのですが、色々アドバイスをしていたようです。

この映画の中でハリー・ラングドンは、よく動きまわるのですけれども、本来はすごく不器用で、ドン臭くて、何をやってもダメというキャラクターで売っていました。彼はチャップリン、キートン、ロイド三大喜劇王と並べて語られていますし、活躍した年代も同じなのですが、彼らが20代の時から活躍していたのに、ラングドンは売れなかった期間が長かったので、この時すでに40歳でした。キートンより11歳年上ということですが、かなり遅咲きと言えるでしょう。

この後ハリー・ラングドンは独立して、ハリウッドでは有名になりますが、セネットの自叙伝によりますと、彼は実生活と映画のキャラクターがほとんど一緒で、とてもバカだったということなのです(場内爆笑)。実際色々な批評家が、ハリー・ラングドンという人は生活感がなく生活力がないと言っています。それでもある評論家は、ハリー・ラングドンが失業しかけている時にセネットのライバルであるハル・ローチのところに拾われて脚本とかギャグを書いていたりしていたことがあり、その時に本来の才能が発見されたと言っています。すごく絵がうまいとか、実はピアノやギターが上手とかいうことだそうです。

セネットの自叙伝、一般の評論家の書いたものでは、彼はすごく不器用で何もできないとか、ギャグはキャプラや他の人たちが作ったもので、彼自身はセンスが無かったと言われています。けれども、今回字幕のチェックをしている時に、この人は実はすごいのではないかということを発見しました。

《映画のワン・シーンを上映》
これは主婦が、泥棒が入ったと保安官のハリー・ラングドンを呼び出すシーンです。「うちの主人がいたらこんなことにならなかったのに」と台詞を言っている女性がいる部屋の奥に、そこにいないはずのハリー・ラングドンが写っているのです。彼がそこにいるということを、監督もカメラマンも当然知っているはずなのですね。今日まで100年近くの間に何人の人が気付いたかわからないですが、こういうイタズラをしていたということは、実は彼はオチャメで、頭の回転が良かったのではないかと、私は思います。



柳下美恵さん(以下柳下) 「愛すべきキャラクターでいつもノホホンとしているけれど、すごく考えてあのキャラも作っているということなのですね。この映画では、子供もすごいですが、動物も活躍していますよね」

新野敏也さん(以下新野) 「マック・セネットは、サーカス団のように、動物と調教師を丸抱えで雇っていたのですね。この犬はカメオという名前で、色々な短編で結構活躍しております。彼の映画では、動物にすべて名前が付いているのです。例えば『臨時雇の娘』に出ていたライオンは、ヌーマという名前が付いていて、他の映画にも出てきています。もちろん、今日の映画に出てきたスカンクも、セネット動物園の中で名前がつけられているかと思います。彼らはちゃんと調教されていて、その行動は決して偶然のものではないのです。
記念写真を撮ろうとしているハリー・ラングドンを困らせる子役は、ジャッキー・ルーカスといって、メーベル・ノーマンド主演の『臨時雇の娘』のラストシーンにも出ていました。マック・セネットの子役の中では有名だった子です。この時はまだ3歳でしたが、悪ガキ専門でした。けれども小学校に上がるくらいの時にはもう辞めてしまって、その後は映画界とは関係なくなったみたいです」

柳下 「ハリー・ラングドンの映画を観ている人は、今日の会場に来られている方の中でも、とても少ないようですので、もっと広めていきたいですね」

新野 「ハリー・ラングドン特集なんていうのもいいですね」

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