柳下美恵のピアノdeシネマ2018「マック・セネット特集」

マック・セネットと喜劇の黄金時代 解説:新野敏也さん

『デブの料理番』Waiters’ Ball
1916年 [アメリカ映画/DVD/14分]
製作:マック・セネット、監督・脚本:ロスコー・アーバックル
助監督:フェリス・ハートマン、撮影:エルジン・レスリー
トライアングル・キーストン作品(S・A・リンチ・エンタープライゼス版)
日本語字幕:石野たき子
出演:ロスコー・アーバックル(デブのコック)、アル・セント・ジョン(痩せの給仕)、コリンヌ・パルケ(レジ嬢)、ケイト・プライス(皿洗いのオバサン)

新野敏也さん解説 とトーク・ショー


「ロスコー・アーバックルの進取精神」

ロスコー・アーバックル

この映画をプロデュースしたマック・セネットはチャップリンとかロスコー・アーバクルを発掘した人です。ロスコー・アーバックルは、最初は他の映画会社にいたのですが、あまり成功せず、セネットの元に行って初めて大スタアになりました。

ロスコー・アーバックルが女装するのは、この時代のコメディアンのお決まりなのですが、特に彼はそれが得意でしたので、わざわざ自分のタキシードがかっぱらわれちゃったという設定を作って、女装しております。

この映画の製作は1916年で、第一次世界大戦の最中ということもありますが、レストランのシーンでは、髭の形とか、服装、食べているもので、客それぞれの民族をからかっています。中でも臭いチーズを食べて、周りの人から嫌がられる人がいますが、あれはリンバーガーチーズというもので、髭の形でドイツ人というのがわかります。スハゲッティを食べる人も出てきたのですが、フォークで食べるのはイタリア人しかいなかったので、それもすぐにわかります。この時代、アメリカではスパゲッテイは一般的ではなく、まだ珍しい食べ物だったはずです。また、ローリングトウェンテイの前の時代にも関わらず、ダンスホールのシーンでは、黒人のジャズバンドが出てきています。これらは20年代の流行を先取りしているとも言えますが、アーバックルはこういうことを得意としておりました。



新野敏也さん(以下新野) 「柳下さんはピアノを弾いてどうでしたか」

柳下美恵さん(以下柳下) 「本当にすごく早いテンポの映画でしたね。いつも思うのですけれども、あれだけ太っていると普通は身体的には不利なのではないかと思うのですが、すごい速さで動きますよね。スラップスティックのコメディアンって、常に頭より体が先に動くという感じなので、それを追っていくのがちょっと大変かな(笑)って感じでした」

新野 「通常サイレント映画は1秒16コマで上映するのですが、これは24コマでの上映なんですね、回転が速いということもありますね。それでも、アーバックルはもともとサーカスで道化師をやっていましたから、動きは相当速かったと思いますよ」

柳下 「フライパンでパンケーキを焼いている時、右に左に動きながらフライ返しをするのですが、絶対に落っことさないですよね。撮り直しとかしているのかな」

新野 「いや、多分一発でやっていますね」

柳下 「彼は舞台でもやっていたということですよね。舞台でやっているから映画でも、ミスしないで出来るのでしょうね。本当にすごいですよね」

新野 「元々マック・セネットの映画では、スクリーンをステージに置き換えるという発想の道化師が多かったので、彼らは横の動きを中心に演技していたのです。それに対してアーバックルは、縦の動き、奥行きが出てくるような演技が多いのが特徴です。それはキートンにも引き継がれていきますけれども、特にアーバックルはパイ投げをやる時なども、1点に集中して何かするというよりは、全方位で演技を繋げるということをしています」

柳下 「チャップリンはどうなのですか」

新野 「チャップリンも出来るのですけれども、どちらかというと、舞台でお客さんに見ていただいているという感覚でカメラを据えて、横の動きを中心にしていますね」

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