『いつだってやめられる 10人の怒(イカ)れる教授たち』 シドニー・シビリア監督インタビュー

「これはユニバーサルな映画だったんだと改めて感じました」

イタリア映画祭2018での『いつだってやめられる』シリーズ最終章上映にあわせて、シドニー・シビリア監督が来日した。今年の映画祭の顔とも言える存在感で会場を盛り上げていたが、開祭前日に行われたインタビューでも、とびきり明るく爽やかな人柄が印象的だった。

ローマのサピエンツァ大学の近くに住んでいたというシビリア監督は、当時、大学の研究員たちが予算削減に対するデモで配っていた「研究員よりお尋ね者のほうがマシ」というビラに目が留まったという。さらに「哲学科の卒業生が街路清掃会社で働いている」という新聞記事に衝撃を受け、この物語の構想を思いついたのだとか。
日本の大学でも研究費の削減や、任期付き教員ポストの拡大など、似たような状況にあるが、本シリーズは日本だけでなく、世界中の映画祭で上映され、次々に公開が決まっている。イタリア映画界でも3部作というのは異例で、監督自身、長編デビュー作がここまでの大作になるとは予想外だったようだ。しかも第2章(5/26から公開中)からはイタリア映画界を代表する俳優ルイジ・ロ・カーショが登場!ということで、ますます期待が高まる話題作である。

ーー本作の背景にある大学の危機や頭脳流出といった問題は日本でも同様だと思いますが、イタリア以外の国で、どのように受け止められているのでしょうか? また日本以外で公開が決まっている国はありますか?

(監督)海外で評判を得られたのは意外で、とくに1作目はイタリア独特のシチュエーションを描いたつもりでした。イタリアでもそんなに成功しないだろうと思っていたので、この状況にびっくりしています。トルコ、アイルランド、メキシコ、中国にまで同じようにウケて、これはユニバーサルな映画だったんだと改めて感じました。
ただ意図としては、笑える映画を作りたかったんです。当時住んでいた所がローマのサピエンツァ大学のそばで、近所で起こっていることを語ろうという気持ちでした。これほどまでに色んな国で受け入れられて嬉しく思います。全ては把握していないのですが、フランス、ドイツ、スペイン、ブラジル、ポルトガル、中国、オーストラリアなどで公開が決まっています。

--ナチスのネタなど風刺で描いているシーンについて、笑っていいのかと戸惑うシーンもありましたが、各国の映画祭で観客の反応はどのようなものでしたか?

(監督)とくにナチスのシーンは自分たちも「やりすぎかな」なんて思っていましたが、挑戦的なノリもありました。「インディ・ジョーンズ(シリーズ)」にもあのようなシーンがあって、しかも考古学者が出てくる。ということで、パロディでやることになりました。観客は戸惑うんじゃないかなと思っていましたが、皮肉は皮肉として受け止めてくれて、笑ってくれました。
ちなみに「インディ・ジョーンズ」はすべてセットですが、自分たちは本物を使ったんです。実際に使われていた1939年のナチスの車両ですが、古いので実際には動かなくて、撮影では大変な思いをしました。でも(本物を使ったという意味で)「インディ・ジョーンズ」よりも上かなと思っています(爆笑)。

隊列を組んで進むシーンは公道で撮影したのですが、テイクの度にナチの服を着た俳優たちが信号待ちをしたり、走って戻ったりしていたので、怪訝な顔で見ている人もいました。人気俳優のエドアルド・レオがナチの服を着て道を走っていた、というのはシュールだったと思います。実際にレオに、SNSで「お前ナチなのか?今日ナチの服着てたよな」というコメントもあったそうです(笑)。

ーーこの映画の学者のように監督自身もこの映画を撮るまでは色んなアルバイトをして生計を立てていたということですが、具体的にどのようなことをされていたのですか?

(監督)映画について学校でちゃんと学んだわけではないんです。短編は作っていましたが長編はまだなくて、どちらかというとアルバイトが本職みたいな状況でした。自分が貧しさというものを体感したからこそ、この物語をリアルに描けたのかなと思っています。高校生の頃はクラブメッドのようなバカンス村で子供たちと遊んだりするスタッフのバイトをしていました。ロンドンでファーストフードのレジ係をしたりもしました。2010年に本シリーズの1作目の脚本を書き始めたんですが、その直前までバイトしてました。

ーー今は大成功してリッチになりましたか?

(監督)そんなことはないです!(フェデリコ・)フェリーニの作品で脚本を書いていたエンニオ・フライヤーノ氏の「映画の危機というのは、脚本家や監督が公共手段で移動しなくなってから始まった」という言葉があります。つまり、映画に関わる者は市井の人々の中にいなくてはいけないのに、自家用車に乗るようになってから映画の堕落が始まった、ということです。というわけで、自分も生活は変えてないです。見た目も全然、お金持ちには見えないでしょ?(笑)

ーーでは今後どんなに成功してもフェラーリに乗ることはないと?(笑)

(監督)車どころか免許も持ってないです!(笑)

ーー脚本に関しては、ご自身の経験も反映させながら、(研究者のセリフなど)専門家の意見など取材もされたのでしょうか?

(監督)脚本には自分の経験やリサーチ、そして空想などすべての要素が含まれています。ただ科学的なところや学術的なところは専門家にコンサルタントとしてご参加いただき、リサーチを重ねました。リサーチが本当に楽しくて、こういうことでもなければ自分が一生知ることのできないような世界で知識を得ることができました。まるで旅や冒険をしているような気分でした。

ーーどうすればこのように映画で描かれている現状を打破できると思いますか?

(監督)それは分かりません(笑)! でもなにか希望があるとしたら、新しい世代が変化を担うのだと思うんです。余計に酷くなるかもしれないけど、突破口というのは若い世代の中にあると思います。映画監督としては問題にカメラを向けることだと思っています。政治家ではないのでその解決策を与えることはできないし、私たちの仕事ではないと思います。でも、もし政治家になっていたら、もっとお金持ちになってたかも(笑)

「いつだってやめられる 10人の怒(イカ)れる教授たち」(シリーズ第2作)は、Bunkamura ル・シネマほか5月26日(土)全国順次ロードショー!

※イタリア映画の傑作を集めた〈Viva!イタリア vol.4〉が6月23日(土)より開催
本作の前日譚 『いつだってやめられる 7人の危アブない教授たち』 の特別限定上映決定!

 【シドニー・シビリア監督】プロフィール
1981年、サレルノ生まれ。生まれ育ったサレルノで短編映画を撮り始め、2007年にローマへ移った。ローマで短編映画『Oggi Gira Così(原題)』(10年・未)をマッテオ・ロヴェーレの製作で監督し、数々の栄誉に輝いた。2014年に初めて手がけた長編映画『いつだってやめられる 7人の危アブない教授たち』が大ヒット。ファンダンゴ、アセント・フィルム、ライ・シネマの製作による同作は、ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で12部門にノミネートされると、ナストリ・ダルジェント賞など、国内外で数々の賞に輝いた。2017年2月2日には、続篇となる本作『いつだってやめられる 10人の怒イカれる教授たち』が本国で劇場公開された。

取材協力:ギャラリー册(冊)
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