君の名前で僕を呼んで
【作品紹介】
17歳と24歳の青年の、初めての、そして生涯忘れられない恋の痛みと喜びを描いた本作。今年の第90回アカデミー賞では作品賞、主演男優賞、脚色賞、歌曲賞の4部門にノミネートされ、見事にジェームズ・アイヴォリーが脚色賞を受賞した。1983年夏、北イタリアの避暑地。17歳のエリオ(ティモシー・シャラメ)は、アメリカからやって来た24歳の大学院生オリヴァー(アーミー・ハマー)と出会う。彼は大学教授の父(マイケル・スタールバーグ)の助手で、夏の間をエリオたち家族と暮らす。はじめは自信に満ちたオリヴァーの態度に反発を感じるエリオだったが、まるで不思議な磁石があるように、ふたりは引きつけあったり反発したり、いつしか近づいていく。やがて激しく恋に落ちるふたり。しかし夏の終わりとともにオリヴァーが去る日が近づく……。
【クロスレビュー】
富田優子/失恋の正しい対処方法を学ぶ映画度:★★★★★
※このレビューは結末に触れています。
エリオとオリヴァーが互いの想いを自覚し、結ばれるまでためらいはない。これほどまでに狂おしく想う相手と出逢えた歓喜が、北イタリアの美しい夏の景色を背景に丁寧に紡がれていく展開は、観客にも極上の歓びを与えてくれる。そして、ティモシーとアーミーの絵画的な美しさといったら完璧だ。特にアーミーに関しては、実はこれまで良いと思ったことはなく、無駄にイケメンだな程度の感覚だったのだが、今回はやられた。“ザ・アメリカン”な正統派の美貌が、本作ではいかんなく発揮されている。
だが本作のキモは、別れ。大概の恋愛がそうであるように、彼らの関係にも終わりが訪れる。その季節は冬、きらめく夏は二度と戻らないが、エリオの父親が失恋の心情を吐露するシーンが秀逸だ。それは失恋の正しい対処方法。本作の時代設定は1983年、同性愛への理解は今よりも低かったはずで、父親のような進歩的な考え方は理想郷すぎるが、彼のことばは傾聴に値する。本作は同性愛がどうのこうのというよりも純粋に一人の人間に恋し、愛しきって、別れる。そしてその別れとどう向き合うべきかという愛の起承転結を描いている。
外山香織/永遠に閉じ込めたい度:★★★★★
冒頭に映し出されるギリシア彫刻のフィルムの数々。主人公エリオの父はその道を研究する学者であり、劇中でも「クニドスのアフロディーテ」「幼いディオニソスを抱くヘルメス」などで知られる彫刻家プラクシテレスの名が登場する。本作の主人公エリオとオリヴァーの風貌はそれらの彫刻のように美しく(実際彼らはほとんど上半身裸だ)、永遠にその姿を留めてしまいたくなる。海から引き揚げられた彫刻も意味深で、彫刻の持つ「永遠性」が本作のキイワードにもなっている気がする。彼らもまた、心の中に溢れる熱情を「何ひとつ忘れない」永遠のものとしてふたりの中に閉じ込めた。彼らだけが知る特別な場所、逢引きまでの時間の待ちきれなさ、「本当に望んでる?」と聞くオリヴァー、別れの際のプレゼント。もう、一つ一つのエピソードが宝石のように美しいが、さらに傑出しているのは、エリオの父が息子へ手向けた言葉だろう。お互いを見いだせた幸運。現実のものとできる尊さ……。「ふたりだけで突っ走る青春映画」に終わらせない、素敵な着地の仕方だったと思う。
4/27(金)TOHOシネマズ シャンテ 他 全国ロードショー