(ライターブログ)第42回香港国際映画祭 

存在感示した中国映画が映す陰鬱

今年で42回目となる香港国際映画祭が3月19日〜4月5日の日程で開催された。
近年はすっかり韓国の釜山国際映画祭に押されているが、アジアでは最も歴史のある国際映画祭。メジャー作品のプレミア上映より若手監督の良作やインディペンデントの作品を紹介することに力を注いでいる印象がある。
コンペティション部門には新人監督賞、ドキュメンタリー映画賞、短編映画賞があり、今年は中国の女性監督・楊明明(ヤン・ミンミン)の『柔情史』(原題)が新人監督賞を受賞。また本作は、国際批評家連盟賞も受賞した。観客のオンライン投票による観客賞は、昨年夭逝した胡波監督のデビュー作にして遺作『大象席地而坐』が獲得。中国映画が存在感を示した。
この2作を含め、今年の香港国際映画祭で上映された中国映画のうち4本を紹介しておきたい。

新人監督賞/国際批評家連盟賞
『柔情史』(英題:Girls Always Happy)

『柔情史』より

北京の下町・胡同(フートン)を舞台に、なかなか安定した仕事を得られない脚本家の女性・小霧(シャオウー)と、彼女を女手ひとつで育ててきたシングルマザーの共依存の関係を描く。
母親は家に引きこもり、いつまでたっても経済的に独り立ちしない娘へのイライラを募らせている。男性への不信感が強く、自分の人生が上手く回らないのは、いい男と出会えなかったからだと信じ、大学まで行かせてやったのに、親に楽をさせてくれない娘をなじる。不平不満で歪んだ表情が実にイヤらしく、演じる耐安(『ブラインド・マッサージ』のプロデューサーも務めた女優)の演技から、不快ながらも目が離せなくなる。
そんな母のもとで育った小霧も、男なんてろくなものではないと刷り込まれている。そして、自分が人とうまくコミュニケーションがとれず、安定した仕事がないのも、全部口やかましい母のせいだと怒りをぶつける。大人になりきれていないこの女ふたりは、自分たちだけの世界で憎み合い、慰め合う。母娘の閉塞感が、迷路のように入り組んだ胡同という場所とリンクする。
1987年生まれ、北京出身の楊監督が、脚本のほか主演もこなしている。洗練された美人女優ではきっと引き出せない、内向的だがプライドは高い小霧がまとう“重さ”や“高慢さ”が生々しい。
日本でも子どもに悪影響を与える親を「毒親」と言うが、本作のテーマはまさにそれ。母親が、敵意むき出しで娘に「私も教育を受けられる時代に生まれていたら、お前なんか生んでなかった」と暴言を吐く。文化大革命の混乱で十分な教育を受ける機会を奪われたのがこの母親世代にあたるが、中国の毒親問題には、日本とは異なる類いの世代間ギャップや、世の中に対する不安感ゆえの子どもへの過剰な期待があるようだ。

『柔情史』より



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