【イスラーム映画祭3】ラヤルの三千夜
ヨルダン川西岸地区に住む教師のラヤルは、怪我をしていた男の子を助けたということだけで、イスラエルの刑務所に投獄されてしまう。「男の子の居場所、テロの関係者の名前を言えば、出してやる」と言われたって、何も知らないのだから答えようがない。まだ、結婚して間もないラヤル。後に妊娠していることも判明しても、容赦されることはない、その理不尽。三千夜とは刑務所で過ごしたその時間。運動するための小さな空間、その天井に張られた鉄製の網に日が差し込み、壁に影を作り出す。長さや、濃さを変えながら刻々と動いていくその影に、むなしく流れる時が映し出される。網の上を歩く鳥は、いつしか遠くへと飛びだっていく。ほぼ全編刑務所の中だけで展開するドラマの中で、外を感じさせる風景は、これだけである。
今でこそ無くなったとはいうものの、以前はこの作品で描かれたとおり、イスラエルの一般犯罪者とパレスチナの政治犯が同じ刑務所に収監されていたというのが驚きである。トラブルが起きないはずがない。その状況が、ここを社会の縮図としているとも言える。刑務官はイスラエルの囚人とつるみ、イスラエルの囚人は、パリスチナ人を差別し、何かといえば挑発し喧嘩を売る。署長は特定のパレスチナ人の便宜をはかり、その代償として同朋のスパイになることを要求する。パレスチナ人への不当な扱いに対して、抗議をするイスラエルの人権派弁護士も登場するが、結局は何の力にもなれないところは、外の世界と同じことである。
ラヤルは刑務所内で子供を産む。これは実話をもとにしているそうである。房の中で、たくさんの“お母さんたち”に囲まれて子供は徐々に成長していく。その成長が彼女たちの希望となっていく。何も変化が期待できない、閉塞状況にあって、それは唯一、未来に向かって変化していくものだからだ。最初は怯えて壁際で縮こまっているばかりだったラヤルもまた、子供と共に成長していくのが見て取れる。このような場所で子供を育てても大丈夫だろうか、そういう不安と闘いながらも、ラヤルは精いっぱいの知恵を使い、子供に外の世界を教えようとする。ラヤルが壁に書いた絵それ自体はとても小さなものだけれども、その世界は無限に広がっている。自由への思いがそこにはいっぱい詰まっているのだ。
これらの物語は、あくまでも刑務所を舞台にしたものだが、外の世界に目を向けても、パレスチナ人の居住区は高い壁でイスラエル側と隔てられていて、そこ自体がまるで刑務所のようでさえある。加えて、仕事でイスラエルの側に行くには厳重な国境警備を抜けなければならず、またビザを収得するのも容易でなく、外国にも自由にいけないという状況は、彼らを囚人のような状況に追い込んでいるとさえ言えるだろう。そう考えると、これは刑務所の物語ではあるけれど、そこに流れる彼女たちの感情、思いというのは、外で生活する人たちと共通するものがあるはずである。それどころか狭い世界だからこそ、それが一層凝縮されて表れていると言えるのではないだろうか。そういう意味では、ラヤルに辛く当たっていたイスラエルの囚人が死に瀕しているのを、彼女が救ったことから生まれた微かな友情は、全体の物語の中では小さな挿話ではあるが、希望を感じさせられるものであり、とても重要なものだと言えるだろう。刑務所を出たラヤルの世界は、今後どのように広がっていくことだろうか・・・。
【イスラーム映画祭3開催概要】
【東 京】
会期 : 2018年3月17日(土)~23日(金)
会場 : 渋谷ユーロスペースhttp://www.eurospace.co.jp/
(チケット)
一般 1400 円
火曜サービスデー 1200 円
会員・シニア 1200 円
大学・専門学校生 1200 円
高校生 800 円
中学生以下 500 円
劇場窓口で上映日の3日前より販売いたします。(現金のみ)
【オンラインチケット購入】
上映日の3日前より各回開始1時間前まで、劇場HPにてオンラインチケット購入(クレジット決済のみ)が可能です。
オンラインチケットはこちらから
http://www.euro-ticket.jp/eurospace/schedule/
【名古屋】
会期 : 2018年3月31日(土)~4月6日(金)
会場 : 名古屋シネマテークhttp://cineaste.jp/
【神 戸】
会期 : 2018年4月28日(土)~5月4日(金)頃
会場 : 神戸・元町映画館http://www.motoei.com/
主催 : イスラーム映画祭
オフィシャルWEBサイト:http://islamicff.com/
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