イスラーム映画祭3~直前ガイド~

イスラーム映画を観ると世界がわかる。

2018年3月17日(土)より渋谷ユーロスペースを皮切りに 『イスラーム映画祭3』が全国3都市で開催される。“異文化理解の場”の創出をテーマにイスラームの文化が広がる国々や地域を舞台にしたよりすぐりの13作品が上映される。(神戸は12作品)今年は、イスラエル建国(1948年)から70年という節目にあわせ、世界で絶賛された日本未公開のパレスチナ映画が初上映されるのにも大注目。また、東京ではパレスチナ問題やシリア内戦などをテーマに、トークイベントが過去最多の11回開催される予定となっている。いまだに混乱が続くシリア。トルコ、クルド、イラン、ロシア、アメリカさまざまな国の思惑が入り乱れ、複雑な様相を呈していて実にわかりにくいが、それを理解することは、今の世界を理解することにも繋がるはずであり、タイムリーな企画と言えよう。

そのような情勢を反映してか、今年イスラーム映画祭では、「分断」がひとつのキー・ワードになっているように感じられる。経済のグローバル化や、インターネットの普及によって、世界はひとつになり、距離もより近くなるかと思いきや、逆にそれが世界の分断を推し進めているというのが、現代なのではなかろうか。シリア国内の「分断」は関係国の思惑が入れ乱れ、またそこから逃げ出した難民たちは、ヨーロッパのそれぞれの国でまた新たな「分断」を招いている。多言語、多宗教国家を掲げ、寛容を国の柱としてきたインドネシアでさえ、グローバル化によって貧富の差が広がり、また自らのアイデンティティへの危機感からか、宗教少数派への迫害も頻発するという事態が起きている。そんな危機の時代、この映画祭の果たす役割はとても重要なものとなることだろう。いや、ならなくてはいけないのである。

作品ガイド

分断の最たるものといえば、パレスチナである。『ラヤルの三千夜』(15年パレスチナ他)は、ヨルダン川西岸地区に住むパレスチナ人教師がイスラエルの刑務所に収監されてしまい、そこで子供を産むという物語。パレスチナの人たちは、仕事でイスラエルの側に行くには厳重な国境警備を抜けなければならず、またビザを収得するのも容易ではなく、外国にも自由にいけない。そのうえ高い壁に囲まれたパレスチナの現状は、その場所自体がまるで刑務所のようでもあり、この作品はそれを寓話化しているようにも思える。パレスチナの映画自体なかなか観る機会がないので、これは大変貴重な機会となることだろう。

混乱の続くシリアからは『ラジオのリクエスト』(03年)が上映される。2003年といえば、前大統領が死去し、バッシャール・アサド大統領が就任。アメリカのイラク戦争による混乱が国境付近であったものの、大統領に対する期待感がまだあった時代である。そんな中、未来への希望をこめて作られたのが、この反戦映画だったのではなかろうか。事実、その後レバノンからの軍の撤退など、物事がいいほうに流れつつあっただけに、今のシリアの状況は、誰も想像することができなかったであろう。その後がわかっている今だからこそ、この作品の願いは余計に胸に迫るところがあるだろう。『ジャッカルの夜』『魂のそよ風』で知られるアブドゥメラティフ・アブドゥルハミド監督の作品である。

『熱風』(73年・インド)は、パキスタンがインドから独立する1947年が舞台。当時新しい国境線が引かれたことによって、1500万人のヒンドゥーとムスリムがそれぞれ安全な場所を求めて国境線に殺到、その混乱の中で、100万人もの犠牲者が出たという。そうしたことから、インドにとどまろうとしたムスリムも多くいたのだが、その結果家族が離れ離れになるなどの悲劇も少なくなかったのである。これはそんなムスリム一家の苦悩を描いた文芸作品である。(第27回カンヌ映画祭コンペティション部門ノミネート作品)

国境ということであればタジキスタン映画『トゥルー・ヌーン』(09年)は、より具体的で鮮烈な印象を残す作品となっている。ある村のど真ん中、それも何もない草原に、一夜のうちに国境が引かれ、鉄条鋼ができてしまう。最初のうちは何とか鉄条鋼をくぐってあちら側にいったり、柵越しにモノを受け渡したりしていた村人たちだったが、そのうちに監視は厳しくなり、地雷が埋められてというように、事がどんどん深刻になっていく。そんな中、離れ離れになってしまった恋人たちの結婚式の日にちが迫り…というこの寓話は、国同士の思惑で、そこに住む人たちの都合とは関係なくできてしまう国境の理不尽について、考えさせられてしまう。

『遺灰の顔』(14年・クルディスタン=イラク)は、村の住民たちの分断が描かれる。1980年代イラン=イラク戦争の時代、クルドの村が舞台。戦死した兵士の棺がムスリムの家族の元に戻るが、隣のキリスト教一家の息子の棺ではないかという疑念が広がり、町中が大騒動になっていくという作品。クルド人の村、その中のキリスト教徒、そのどちらにも属さない民族の人(酒造りを商売にしている)と、イラクの中ではマイナーなほうに属する人たちのミニマムな世界を描いたものながら、国の戦争という大きな枠組みの中では、争ってみたところでみんな同じであるという皮肉な視点が効いた、ユーモラスな作品だ。

『私の舌は回らない』(13年・ドイツ)は、移民の世代間の分断がひとつのテーマになっている。トルコ人のドイツ移民の世代間の分断の物語は、『おじいちゃんの里帰り』や『そして私たちは愛に帰る』などでもうお馴染みのテーマとなっているところだが、この作品は祖父がトルコからの移民であることは知っていたが、クルド人であることを長年隠していたことに疑問を感じた移民二世の監督が、それを探っていくドキュメンタリーである。

アフガニスタンからは、女性の社会からの分断を描いたドキュメンタリーが2本上映される。『ボクシング・フォー・フリーダム』(15年)『モーターラマ』(12年)前者は女性のスポーツ参加がいまだ難しいアフガニスタンで、ボクシングに夢を懸ける一人の少女を追いかけたドキュメンタリー。後者は保守的な男性優位社会における、女性の困難、それに立ち向かおうとする女性たちの姿を描いたドキュメンタリーである。

『エクスキューズ・マイ・フレンチ』(14年・エジプト)はコプト教徒の男の子が、周りが全員ムスリムという小学校に転入してしまうという物語。素性を隠して親友もできたけれど、そのことでますます自分の素性を切り出せなくなった男の子の学園コメディだ。エジプトといえば、昨年キリスト教の一派コプト教の教会へのテロ事件が相次いで起きたことも記憶に新しい。昨年のイスラーム映画祭で上映された『敷物と掛布』ではコプト教徒とムスリムの関係が描かれていたが、それでもわかるように、相いれないものがあるものの必ずしも敵対するという関係ではない。テロ事件はISISが犯行声明を出しており、大統領もこのことに胸を痛めている。まだまだ複雑な事情を抱えていない子供たちの物語であるからこそ、微妙な問題にも踏み込めるということもあるだろう。

科学とイスラーム教は、分断されたものなのか、それとも共存できるものなのか。そんなテーマを感じさせられるのが、インドネシア映画『イクロ クルアーンと星空』(17年)である。イクロとはクルアーンをアラビア語で詠む練習法のこと。インドネシアは教育熱心な国として知られていて、名門大学では、自然科学や医学、数学などが教えられ、もちろんそれは西洋の国と何ら変わりはない。しかしそういうものを学んだ優秀な学生の中からISISのテロに関わった人物が出てきており衝撃を受けているのが、インドネシアの現状でもある。この作品はバンドゥン工科大学のサルマン・モスクが製作した作品であり、そうした問題も念頭にあったのかもしれない。

『アブ・アダムの息子』(2011年インド)
メッカへの巡礼の夢を実現するためにお金を貯めるのに苦労している、高齢のムスリムの夫婦の悲しみと苦労を描いた作品。これはインドの一番南、アラビア海に面したケーララ州の公用語であるマラヤーラム語の映画である。ボリウッド映画やタミル語の映画と違い、その地方だけで上映されるものがほとんどということもあり、日本で上映されること自体が珍しい。さらに今回は、本作で数々の賞を受賞した監督のサリーム・アフマド監督が来日し、トークセッションも行われるとのことで、インド映画ファンならずとも、大変貴重な機会になることだろう。カザン国際ムスリム映画祭グランプリ受賞作。

『花嫁と角砂糖』(2011年イラン)
2017年の東京国際映画祭の審査員で、イランの名匠の1人であるレザ・ミルキャリミ監督作品。『花嫁と角砂糖』は米国アカデミー賞外国語映画賞部門のイラン代表に選出されている。婚礼の祝いに集まる家族の群像劇だが、イランの伝統的な文化もまた興味深い作品である。



『女房の夫を探して』(1994年モロッコ)
3番目の妻と三度目の離婚をしたハッジ。後悔するが、四度目の結婚は相手が一度離婚しない限り許されない。もともとは戦争未亡人救済の措置であるイスラームの“一夫多妻”を題材にしたコメディ。ルールにふり回される憐れな男とは対照的に人生を楽しむ女性の姿を活き活きと描き、90年代にモロッコで大ヒットを記録。

Copyright © イスラーム映画祭実行委員会

※お知らせ

 会場では、イスラーム映画祭公式ガイドブック「映画で旅するイスラーム 知られざる世界へ」(藤本高之・金子遊/編)が販売されます。「旅行記みたいな映画本」を目指されたという本書は、70本の作品を中東アラブ諸国、北・西アフリカ、ヨーロッパ、西・中央アジア、南アジア/中国・東南アジアに分け、それぞれの製作国の人口や宗教分布などのデータも付いていて、イスラーム圏の映画を鑑賞する際の座右の書となること請け合いです。

【イスラーム映画祭3開催概要】

【東 京】
会期 : 2018年3月17日(土)~23日(金)
会場 : 渋谷ユーロスペースhttp://www.eurospace.co.jp/
(チケット)
一般 1400 円
火曜サービスデー 1200 円
会員・シニア 1200 円
大学・専門学校生 1200 円
高校生 800 円
中学生以下 500 円
劇場窓口で上映日の3日前より販売いたします。(現金のみ)
【オンラインチケット購入】
上映日の3日前より各回開始1時間前まで、劇場HPにてオンラインチケット購入(クレジット決済のみ)が可能です。
オンラインチケットはこちらから
http://www.euro-ticket.jp/eurospace/schedule/

【名古屋】
会期 : 2018年3月31日(土)~4月6日(金)
会場 : 名古屋シネマテークhttp://cineaste.jp/
【神 戸】
会期 : 2018年4月28日(土)~5月4日(金)頃
会場 : 神戸・元町映画館http://www.motoei.com/
主催 : イスラーム映画祭
オフィシャルWEBサイト:http://islamicff.com/
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  1. March 14, 2018 at 10:46AM – アラビア語教室 大阪 Anc 梅田~2駅,徒歩1分 – スクール 関西

    […] イスラーム映画祭3~直前ガイド~ 参考元 : http://eigato.com/?p=30013 […]

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