『長江 愛の詩(うた)』楊超(ヤン・チャオ)監督
——中国の映画市場は急成長していますが、本作のようなアート系映画の興行は厳しいと聞いています。監督は、アート系映画の存在意義をどう考えていますか?
楊:アート系映画の価値は、興行収入でははかれないものだと思います。映画言語の境界を探るもの、映画の中での表現手段やスタイル、言語において、イノベーションを試みているもの。そういう作品を「芸術電影(アート系映画)」と私は呼びます。
ひとつ例を挙げると、Googleは「X」という研究機関を持っていますよね。この機関自体は経済効果を生みません。宣伝もしません。その上、毎年多額の資金を使います。けれど、大きな組織ならどこでもこうした部門をもっている。アート系映画というのは、映画業界におけるGoogle「X」だと思います。
アート系映画の使命は、映画という芸術の発展のために絶えずトライし続けること。特定のジャンル映画は、近年、膠着した状態にあると思います。これは映画全体の活力にかかわることです。例えば『トランスフォーマー』。1作目は面白かったですけど、5作目になるとヒドいものになりました。アート系映画というのは、観客に新しい視点やスタイルなどを提供するものであり、商業映画とは相互補完的関係にあると思います。
——間もなく日本公開です。日本の観客に、この作品をどう楽しんでほしいですか?
楊:もしあなたがごく一般的な映画の観客で、シンプルに楽しみたいタイプのお客さんなら、長江を船旅する気持ちで見てもらえたらと思います。アジア随一の名カメラマンによる映像とともに、主人公と一緒に長江をさかのぼる。2時間という時間の中で、長江という川の美しさを楽しんでもらえると思います。
映画の含意をじっくり味わいたい方は、2回目を見る準備をしてほしいですね(笑)。この映画の構造は、中国の観客にも大きな挑戦を強いたようですが、背景にはちゃんとストーリーがあるのです。
楊超(Yang Chao)
1974年1月6日、河南省出身。2001年に発表した短編映画『RUN AWAY』(未)が第54回カンヌ国際映画祭でヤングディレクターアワードを受賞。その後、長編一作目の『Passages』(未/04)が第57回カンヌ国際映画祭「ある視点部門」カメラドール スペシャルメンション受賞をはじめ、第4回クァンジュ国際映画祭にて審査員賞を受賞するなど数々の賞に輝き注目される。2015年のアジアフォーカス・福岡国際映画祭で上映された台湾映画界を描くドキュメンタリー映画『Flowers of Taipei-Taiwan New Cinema』(14)では出演もしている。
2月17日(土)から、シネマ—ト新宿、YEBISU GARDEN CINEMA(4K上映)、シネマ・ジャック&ベティほか全国順次公開