『長江 愛の詩(うた)』楊超(ヤン・チャオ)監督

「アート系映画の使命は、映画という芸術の発展のために絶えずトライし続けること」

 チベット高原を水源とし、広大な中国大陸を西から東へ横断する長江。『長江 愛の詩(うた)』は、この雄大な大河の周辺でオールロケによって撮影された作品だ。
 中国最大の都市・上海で貨物船に乗り込んだガオ・チュン(チン・ハオ)は孤独な文学青年で、2カ月前に亡くなった父親の後を継いで船長になったばかり。船着き場で生活に疲れた様子の女性アン・ルー( シン・ジーレイ)の姿を見かけ、心惹かれる。上流への船旅の最中、不思議なことに行く先々でアン・ルーと再会する。彼女の出現は、機関室で見つけた手書きの詩集「長江図」と関係があるようで…。
 幻想的かつ力強い長江の映像は、名カメラマン、リー・ピンビンの手によるもの。2016年ベルリン国際映画祭で銀熊賞(芸術貢献賞)を受賞した結果にも納得の、夢を見ているような2時間が味わえる。
 脚本の執筆を始めてから完成まで、およそ10年という年月をかけたという楊超(ヤン・チャオ)監督への電話インタビューが実現。製作の裏側を聞いた。

©Ray Production Limited, Lemon Tree Media Company Limited.


——『長江 愛の詩』を2回拝見しました。見るたびに新たな発見があるのですが、正直に告白すると、まだ物語の背景や人物、とくにアン・ルーという女性が何者なのかを完全に理解できていません。監督の中ではどんな設定があるのでしょう。

楊超監督(以下、楊):実は、それほど複雑な話ではないのですよ。観客のみなさんがアン・ルーについて「わからない」とおっしゃるのは、この物語が時間の流れどおりに進まないからでしょう。主人公のガオ・チュンとアン・ルー、男と女の異なる視点から、対流する時空のような2つの時の流れを同時に語っているのです。真逆の2つの方向から同時に1つの物語を語っています。

——説明を排除しているのには、どんな意図があるのでしょうか?

楊:この一風変わった構造は、私の長江という川に対する理解からきています。私は長江を完全に「時間の流れを表すもの」として撮っています。私にとって長江に流れているものはただの水ではなく、時間そのものです。主人公の乗った船が上海から南京へ100キロ航行すると同時に、時の川の流れのなかでは1年という時間をさかのぼっています。最初に上海で会った女性は、南京で再会したときより少し年をとって見えたのはそのためです。ある男が乗る1隻の船とともに、1人の女性の20年の歳月を逆流していく。そう考えていただくと、わかりやすいと思います。

——なるほど。

楊:普通のSF映画なら、時の流れが巻き戻るたびに、それとわかる描写が入りますが、この映画にはそういった描写はひとつもありません。それが観客が困惑する原因だと思います。ある男と一緒に1人の女の人生を逆流する。脚本執筆の最初の段階からこうすると決めていました。

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