【TNLF】オルハイム・カンパニー

それは、父(暴君)が夢に描いた家族の肖像

The Orheim Company

©Norwegian Film Institute

オルハイム・カンパニー、それは父親の果たせぬ夢だった。自分たち家族は、対ナチスレジスタンス、オルハイム師団の子孫であるということが、唯一ともいえる彼の誇りである。1940年ドイツ軍がノルウェーに侵攻。家族が住む北海に臨む街スタヴァンゲルもその目的地の1つだったのである。年齢からいうと、闘ったのは彼の祖父だったのかもしれない。おそらく父親からよく聞かされた話なのだろう。その詳しさから、子供時代から夢中になって本を読んでいたことが想像できる。「彼らは、共に助け合い団結して、勇気を持って行動し、私たちはそのお陰で生き残った」繰り返し語らずにはいられないその強い思いの中には、自分の先祖への憧憬と、自分もそんな関係を親しい人と築きたいという気持ちが入っている。

親しい人というのは、もちろん家族のことだ。彼は一家の師団長になりたかったのである。
この作品は、父親のお葬式に向かう道中の息子がそんな父親を回想する形で物語が進んでいく。1985年16歳のヤーレ。アフリカ難民救済を目的とした世紀のイベント「ライヴエイド」の中継を心待ちにしていた彼は、カセット・テープを買い込んで、テレビのスピーカーの前に、録音マイクをセットする。それにも関わらず、父親は「そんなものでは世の中は良くならない」とオルハイム師団の話をするや、強引に彼をその戦闘跡地へのサイクリングに連れ出してしまう。ヤーレの落胆、父への怒りがどれほど強かったか。回想は、そんな強烈な思い出から始まっていく。

普段は優しい感じの父親だったが、オルハイム師団の話をする時、彼は人が変わったよう雄弁で、独善的になった。そのうえ彼はアルコール依存症で、呑みすぎて仕事を休んだり、家族に暴力を振るったりしていた。顔に痣を作った母親は、別れたいという気持ちを持ちながらも、時に見せる彼の優しさのため踏ん切りがつかないまま、ずるずるとそんな家庭にしがみついていた。ヤーレはそんな母親にもイライラしていたのである。スチールに使われている家族の写真。誇らしげな父と息子に頼りたげな母の間に挟まったヤーレは、これから起こる未来を憂えるかのように、どこか不安げな顔をしている。これがこの家族の形をとてもよく表している。

父親のオルハイム師団への極端なこだわりは、彼の父との繋がりがそれしかなかったことの反動という気がしてならない。ヤーレの母親の家族が、しっかり描かれているのに対して、彼の家族は大昔の歴史以外に、その存在が見えてこないのである。妻の実家に親戚一同で集まった時の彼の荒れ方も、そう考えると納得がいくような気がする。彼はおそらく、家族の幻想に取りつかれていたのだろう。オルハイム師団のように結束が固く、幸せな家庭を築きたい。自分が子供時代に味わった寂しさを家族には味あわせたくない。それが彼の唯一の人生の夢だったのかもしれない。

しかし、自分自身家族と縁が薄かった彼には、一家の師団長として振る舞うこと以外に、どう家族と接していいかを知る術がなかったのである。彼は本来的には、優しくて弱い人である。しかし、その思いの強さが彼を暴君にする。家族がいつも一緒にいないことへの不安、反発されることへの不安が、彼をアルコールへと向かわせる。そしてそれは暴力へと向かう。その繰り返しである。妻のために作り始めたサン・ルームは決して完成することはない。家を作ることと人生の歩みは、どこか似ているとろがある。それは、彼の人生をどこか象徴している。

誰でも肉親の死に接すると、いい思いや嫌な思いが複雑に交差する。それらが悲しみと共に一気に押し寄せてくる。その思いを整理してようやく人は前に進んでいくことができるのだ。一番楽しいはずの若い日々を、父親に台無しにされた。そんな人は、彼が亡くなった時、どうやってそれに向き合うのだろう。この作品がヤーレの回想形式になっているのは、単に思い出を語るということではなくて、その過程、その心の動きを表現したかったからではないだろうか。同時に回想される楽しかった友人との思い出も、甘酸っぱい恋の思い出も、すべてにどこかで父親の影がつきまとっている。それらのすべてが、お葬式でのスピーチへと集約されていくのである。どのように父を語ればいいのだろう。その役目が無事に果たせたとき、きっと彼は父を克服し、前に進んでいくことができるのであろう。これは息子が父親の影を解き放ち、やがて家庭を持つための通過儀礼のドラマなのである。

トーキョーノーザンライツフェスティバル 2018開催概要

映画祭会期:2017年2月10日(土)~2月16日(金)
会場:ユーロスペース
主催:トーキョーノーザンライツフェスティバル実行委員会
公式サイト:http://tnlf.jp/ (映画祭以外にもイベントが盛りだくさん。詳しくはこちらから)
Face book:https://www.facebook.com/tnlfes
Twitter:https://twitter.com/tnlfes
予告編:https://youtu.be/vIDxXbvoE2Y
※チケットはユーロスペース公式ウェブサイト、劇場窓口にて上映3日前より販売!
一般1,500円、学生・シニア・ユーロスペース会員1,200円
詳細はhttp://tnlf.jp/ticketにてご覧ください

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