『ウイスキーと2人の花嫁』ギリーズ・マッキノン監督

ウイスキーは堰を切ったように感情が露わになってしまう飲み物です(笑)

スコットランド人なら誰でも知っているという奇跡の実話が、ふたたび映画化。オリジナル版(1949年)に惚れ込んだプロデューサーが人生をかけてリメイクした本作は、スコットランドの魅力がギュッと詰まった芳醇な作品に仕上がっている。
ナチスによるロンドン空爆が激しさを増す第二次世界大戦中、スコットランドのエリスケイ島沖で大量のウイスキーを積んだ貨物船が座礁。戦況の悪化でウイスキーの配給が止められていた島民たちは、そのウイスキーを秘かに“救出”しようとする。「ウイスキー無しじゃ結婚式はムリ!」と反対されていた2組の若いカップルも救出作戦に加わることに・・・。
監督は69歳のベテラン、ギリーズ・マッキノン。来日したマッキノン監督に本作の見どころをうかがった。

ーー本作はプロデューサーのイアン・マクリーン氏の夢と情熱が結実してできたリメイクということですが、どういういきさつで監督をすることになったのですか?

監督:ここ10年ぐらいで温められた企画だと思っていたのですが、ある時イアンの同級生が「いやいや、イアンは10代の時からリメイクしたいと言っていたよ」と話していて、彼にとっては執念だったのだと知りました。私が本作を監督したのは依頼があったからです。すでに脚本は出来上がっていて、島民たちがどういう共同体を形成しているのか、どのように家族や友人たちと関係を築いているのかということがちゃんと描かれており、私はそこにこの脚本の魅力を感じました。ただ、いくつかのシーンは自分で調整を加えていきました。

ーーどのように調整を加えたのでしょうか?

監督:まず情景描写ですね。犬が寝ていたり、舟のなかで寝そべる男性が出てきたり。こういったシーンは、アンドリュー・ワイエスという画家のビジュアルにインスパイアされました。あとは女性の描き方です。いまは2017年だし、もう少し女性たちを活躍させようということで船に乗り込むシーンを加えました。「昔の女性はこんなに行動的じゃなかった」と議論にもなりましたが、やはりそこは現代風にアレンジしました。

ーーたしかに若い娘たちと母親世代の女性陣が好対照で、互いの個性やキャラクターがより際立っていて印象的でしたね。

監督:父親と娘たちの葛藤が可笑しくて、ほの哀しい物語ですよね。一方で、婚約者の青年(ケヴィン・ガスリー)には強権的な母親がいて、彼はその母親に結婚を認めてもらうために声を上げなくてはいけない。私は、父と娘、母と息子の関係の描写にこだわりを持っていました。

ーー登場人物たちがとても個性豊かでクセもありますが、俳優陣がピッタリとハマっているキャスティングだと思います。配役はイメージ通りでしたか?

監督:最初に決まったのは父親役のグレゴール・フィッシャーです。彼と合う娘役は誰か?という風に探していきました。次は(島民の敵である)大尉役ということでエディ・イザードが早々に決まったのですが、彼の妻役がなかなか見つからなくて。もうこれはダメなんじゃないかと思った時に、まさにこの作品の座礁船のような奇跡が起こったわけです。いかにも英国人的なトチ狂った女性ですが、これをうまく表現できる彼女(フェネラ・ウールガー)がぴったりだったんです。あとはリハーサルを重ねて一体感を高めていきました。

ーー戦争中とは思えないユーモラスな島民に笑い、彼ら特有のジョークの応酬に魅了されました。彼らがよそ者に放っていた「ツイードの商売は忙しいか?」というジョークの真意について教えてください。

監督:ツイードはあの島で作っているものなんです。島で作っているものをグラスゴー(都会)から来た男が島で売るというのはおかしなことで、「お前、本当は何者だ?」という意味なんです。島民は彼のことをドイツのスパイなのか、それとも政府のスパイなのかと怪しんでいて、何か偵察されているというのを感じているのです。

ーー監督にとってウイスキーとは?

監督:ウイスキーには“飲み時”というのがあります。私の場合、夕食を食べながら飲むということは無いです。夕食時にはワインを飲みます。ウイスキーは旧友との会合とかパーティの時に飲むものだと思っています。堰(せき)を切ったように感情が露わになる飲み物でもあります(笑)。本音が出るというか。そういう特別なお酒です。

2月17日(土)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー


ギリーズ・マッキノン監督 プロフィール
グラスゴー芸術大学で絵画を、英国国立映画テレビ学校で映画を学んだ。卒業制作として、自身が脚本を書いて監督した作品が 1986年エディンバラ国際映画祭のファースト・スコティッシュ映画賞を獲得。賞のプレゼンターは、1949 年のオリジナル『Whisky Galore!(原題)』を監督したアレクサンダー・マッケンドリックだった。
多数の受賞・ノミネート歴を誇る名監督として評価されており、『Small Faces(原題)』で1995年エディンバラ国際映画祭最優秀英国映画賞とロッテルダム国際映画祭タイガー・アワードを受賞し、弟のビリー・マッキノンと共同で執筆した脚本が英国アカデミー賞脚本賞にノミネートされた。リチャード・ハリス出演の『Trojan Eddie(原題)』で1996年サンセバスチャン国際映画祭金の貝殻賞を受賞、ジュディ・デンチが出演し、ゴールデン・グローブ賞と英国アカデミー賞を受賞した『ザ・ブロンド爆弾 最後のばら』(00)の監督を務めた。ケイト・ウィンスレット主演『グッバイ・モロッコ』(98)で1998 年エディンバラ国際映画祭ヘラルド・エンジェル賞を受賞。2004年には、ビアリッツ国際テレビ映像フェスティバルでゴールデン FIPA賞を受賞したマイケル・ファスベンダー、ロバート・カーライル出演の前後編からなる歴史ドラマ『レジェンド・オブ・サンダー』(04)を監督した。映画とTVドラマの監督・脚本家として活躍するほか、マンガや絵画も描いている。

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