【TNLF】ストロベリー・デイズ
6月から7月にかけてスウェーデンはいちごの収穫期を迎える。いちご農園には、外国から季節労働者たちがやってくる。収穫作業は、肉体労働のうえ賃金も低く、スウェーデン人でこの仕事をやる人はほとんどいない。そこで外国からの季節労働者が頼りとなるのだ。15歳の少年ヴォイテクも、ポーランドから両親と一緒に、出稼ぎにやってきた。住む場所は、雇い主の屋敷からは離れたキャンピング・カー。作業は朝早くから日が傾くまで、なかなか過酷なものだった。手はいちごの棘で傷だらけ、給料は歩合制で一箱運ぶごとに、品質をチェックされ、チケットを渡される。管理をしているのは、雇い主の娘アンネリだ。いつもつまらなそうな顔をしていると、仲間内では評判が悪い女の子だったが、ヴォイテクと彼女はいつしかお互いに思いを寄せ合うようになるのだった。
一見すると『小さな恋のメロディ』に代表される純情胸キュンの、恋物語風に見える作品だが、どうして中身は意外に重い。この映画には全編を通して差別の問題が横たわっているのである。スウェーデン人たちは、ポーランドの労働者からは離れたところで生活し、一切関わりをもとうとはしない。ちゃんと見張っていないと、怠けたり泥棒されたり、何をされるかわからない。そんな認識を持っているように見える。
スウェーデンは、そもそも移民を比較的受け入れている国であり、小学校時代から差別をなくすための教育をしっかりやっていると言われている。故に決してあからさまに差別的な言葉を投げかけたりすることはないのだが、底の意識までは変えられないようである。最もそれが顕著に表れるのは、パーティーに集まったスウェーデン人たちが、ポーランド人と農園の管理人が争っている様子を、家のガラス越しに眺めるシーンである。誰も止めに入ろうとはしないし、誰も警察に電話をしようとする人はない。家の中に入って来さえしなければいいといった風情で、ただただ茫然と眺めている。このガラス1枚の隔たりが、彼らの意識をとても象徴的に表している。
この作品では、スウェーデンの農園主たちだけが悪いのではなくて、差別される側にも、更なるその下の差別が存在していることが描かれている。労働者の中でも、ポーランド人よりも低い扱いを受けているのが、ベラルーシ人である。彼らはポーランド人より安い賃金に甘んじているだけでなく、ポーランド人たちからも、一段低く見られ差別を受けているのである。この作品が作られた背景には、季節労働者の劣悪な労働条件、そのあまりの差別的な扱いに事件が起き、いまスウェーデンの社会問題になっているということがあったに違いない。しかしその描写によって、作品はそれだけにとどまらず、世の中の至る所に蔓延る差別の問題へと広がりをみせたと言えよう。
そんな背景におけるヴォイテクとアンネリの恋は、一服の清涼剤のように見えてくる。両親に知られては、引き離されてしまうかもしれないことがわかっている2人は、廃屋となったアンネリのおばあちゃんの家で、デートを重ねる。2人で自分の身体を指さしながら、ポーランド語とスウェーデン語で身体の部位の名前を言い合うシーンの素敵なこと。ここでは言語の違いが、差別ではなくて歓びに変わっている。彼らの恋が純粋であればあるほど、差別意識がむなしいものに感じられてくる。故にポーランド人たちに差別意識を持っている大勢の隣人たちが見ている中、アンネリが、勇気をもって家の中から外へ出て、ヴォイテクの元へと足を踏み出した一歩は、それでも彼と離れたくないという彼女の気持ちから、ということにとどまらない意味を持つ。小さな一歩ではあるが、それは希望の一歩なのである。
※2/14 wed 11:30 2/15 thu 19:00~上映
トーキョーノーザンライツフェスティバル 2018開催概要
映画祭会期:2017年2月10日(土)~2月16日(金)
会場:ユーロスペース
主催:トーキョーノーザンライツフェスティバル実行委員会
公式サイト:http://tnlf.jp/ (映画祭以外にもイベントが盛りだくさん。詳しくはこちらから)
Face book:https://www.facebook.com/tnlfes
Twitter:https://twitter.com/tnlfes
予告編:https://youtu.be/vIDxXbvoE2Y
※チケットはユーロスペース公式ウェブサイト、劇場窓口にて上映3日前より販売!
一般1,500円、学生・シニア・ユーロスペース会員1,200円
詳細はhttp://tnlf.jp/ticketにてご覧ください