【TNLF】ゾンビ&ザ・ゴースト・トレイン
ゾンビという名のベーシストが、たまたまザ・ゴースト・トレインという名のバンドのツアー・バスに乗り込んでしまったことから、死神に取りつかれるという、まるで都市伝説のような、ミュージック・フェアリー・テールである。ザ・ゴースト・トレインは「最近よく聞くけれど、演奏しているのを誰も聴いたことがない」というまさに幽霊バンド。実は、この世のものではない。ミュージシャンをあの世に送る死神のような存在である。
マッティ・ペロンパー率いるカントリー・バンドのツアー・バスの中で、まさにそんな会話が交わされる。実際にこんなことってありそうで、観ていて楽しい。そもそもこの映画の発想は、そんなミュージシャンたちの噂話みたいなところから出てきたのではないだろうか。というのも、ストーリーにレニングラード・カウボーイズのサッケ・ヤルヴェンパーがクレジットされているからである。(彼もツアー・バスの中にメンバーとして入っている)
それにしてもマッティ・ペロンパーの横でそんな話をしているのが、マト・ヴァルトネンというのが、また嬉しくなってしまう。『愛しのタチアナ』(94年)でこの2人が並んで座り、あまりにも無口過ぎて、連れの女性たち(カティ・オウティネンら)に彼らは馬鹿に違いないと思われていたことを思い起こしてしまう。それに対してこの映画の彼の饒舌さよ。『愛しのタチアナ』のほうがこの作品より後から作られていることを考えると、この頃のミカ、アキ・カウリスマキ兄弟は、お互いに影響しあうところがあったのかな、などと楽しい想像をしてしまう。
もうひとつ言えば、この映画のタイトル「ゴースト・トレイン」は、これより少し前に作られた、親友ジム・ジャームッシュ監督の『ミステリー・トレイン』(89年)から発想されたものなのかな、などと想像の翼がどんどん広がっていきそうである。彼がメンフィスの実在のミュージシャンたちにオマージュを捧げて映画を作ったのなら、そんなら俺は、ミュージシャンのほら話を作ってやろうみたいに。
マッティ・ペロンパーがとにかく素晴らしい。悲しいネズミ(アキ・カウリスマキが命名した)の面影は、ここにはない。心が広くて、温かい人柄が内面からにじみ出てくるかのようである。アキ・カウリスマキ映画の時のように虚勢を張ることもない。ボソボソとしゃべる声は、かえって安心感さえもたらしてくれる。留守番電話に吹き込んだメッセージだけは、あまりにも間抜けで、彼らしいキャラになっているのではあるが・・・。「ただいまツアーに出ていて、留守にしております。なかなか忙しいです。ヒーッハー」特に最後のヒーッハーという甲高い声が、笑いのツボになっている。本作ではペロンパーは、一応カントリー・バンドを率いているということもあって、歌も2曲披露する。これも意外や意外、カントリーに彼の声がとてもよく合っていて、思わず聴き惚れてしまう。
映画の後半、ペロンパーが海辺で、ゾンビの写真を持って彼の消息を訪ね歩くシーンも、なんだか嬉しくなってしまう。まるで日本の「日本触媒」のCM(92年)のワン・シーンを観ているかのようであった。これは本作の翌年に、アキ・カウリスマキが演出した、今や伝説的なCMである。もっとも、この作品のストーリーを考えた人は電通の社員で、似たのは偶然過ぎないのではあるが。因みにこのCMには、レニングラード・カウボーイズも出演しているが、シル・セッパラはなぜか現れず、ベースには代役が立てられるという、この映画を地で行くようなことがあったのである。
主演のシル・セッパラは、さすが元レニングラード・カウボーイズのメンバーで、かつフィンランド・ロックのトップ・ベーシストと言われていた人だけあって、後ろ姿がいかにもロックン・ローラーといった感じでカッコいい。少年のような目をしていて、いつも悲しそうに上目遣いに人を見ている。あの表情は、この作品にとても合っている。しかし彼はやっぱり職業俳優ではないので、アキ・カウリスマキ監督『ロッキーⅥ』のような短編では、その頼り気なさが生きるのだが、これだけの長編になると、それだけでは間が持たないと言わざるを得ない。どうしてもマッティ・ペロンパーのうまさが際立ってしまい、肝心の主役の彼の演技が単調に見えてしまうのだ。それがこの作品の弱点となっている。その辺りもう少し、演出の工夫をしてあげられなかったのかなという思いは残る。
※2/14 wed 21:10 2/16 fri 14:00~上映
トーキョーノーザンライツフェスティバル 2018開催概要
映画祭会期:2017年2月10日(土)~2月16日(金)
会場:ユーロスペース
主催:トーキョーノーザンライツフェスティバル実行委員会
公式サイト:http://tnlf.jp/ (映画祭以外にもイベントが盛りだくさん。詳しくはこちらから)
Face book:https://www.facebook.com/tnlfes
Twitter:https://twitter.com/tnlfes
予告編:https://youtu.be/vIDxXbvoE2Y
※チケットはユーロスペース公式ウェブサイト、劇場窓口にて上映3日前より販売!
一般1,500円、学生・シニア・ユーロスペース会員1,200円
詳細はhttp://tnlf.jp/ticketにてご覧ください