シェイプ・オブ・ウォーター

映画と。ライターによるクロスレビューです。

【作品紹介】

(C)2017 Twentieth Century Fox

『パンズ・ラビリンス』のギレルモ・デル・トロが監督・脚本・製作を手がけ、第74回ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞したファンタジーラブストーリー。今年の第90回アカデミー賞でも作品・監督・主演女優等最多の13部門で候補入りした話題作だ。
1962年、冷戦下の米国。政府の極秘研究所で清掃員として働くイライザ(サリー・ホーキンス)は、研究所内に密かに運び込まれた不思議な生き物を目撃する。彼女はアマゾンで神のように崇拝されていたという“彼”に一目で魅了され、密かに会いに行くように。幼少期のトラウマで声を出すことができないイライザだったが、“彼”とのコミュニケーションに言葉は不要で、2人は少しずつ心を通わせていく。そんな矢先、イライザは“彼”が実験の犠牲になることを知り・・・。

【クロスレビュー】

富田優子/ヒロインの無垢な思いに落涙度:★★★★☆

本作の時代設定は、1962年。国際的には米ソが激しく対立する冷戦の真っただ中、米国内では人種差別が根強く残っている時期だ。なぜデル・トロ監督はこの物語をこの時代に設定したのだろうか。
恐らく、現代よりも1962年のほうが主人公イライザ(サリー・ホーキンス)の無垢さが引き立つからであろう。彼女の一番の親友はアフリカ系のゼルダ(オクタヴィア・スペンサー)。スペンサーが出演した『ドリーム』でもそうだったように、白人優位が当たり前の時代、異人種間で真の友情をはぐくむというのは、極めて珍しかったはず。しかしイライザは違った。純粋な彼女には、友人の肌の色なんて関係ないのだ。そんな彼女だからこそ、人間ではない“彼”と恋に落ちるのに、ためらいはない。“彼”と心を寄せ合い、“彼”を愛し、“彼”を救うために驚きの行動に出る。“彼”を侮辱するようなゲスな男(マイケル・シャノン)にはすがすがしく中指を立てる。愛の本質とは何か?言葉を発せられないイライザが自らの思いぶちまけるシーンこそ、その答えであり、素直に心を打たれる。美しくて、残酷で、少し悲しくて、でも愛に満ちた至福のファンタジー。イライザと“彼”が「美女と野獣」ではないことも重要なポイントだ。

外山香織/監督の手腕に脱帽:★★★★★

多くのおとぎ話では、魔法によって醜い姿や動物に変えられた主人公たちは美しい本来の姿に戻る。そのセオリーからすると本作でもその展開を予期させるところはあった。実は「彼」は本当に神のような存在ではないのか。私自身は、イライザの友人ジャイルズの傷を治し薄毛の頭に毛髪を生やしたチカラを見せられ、もしかしてイライザが彼と結ばれることによって、声帯の傷が癒え声が戻るのでは? と予想したが、結果は見事に裏切られた。彼らは何も変わらなかった。つまり物語の本質は愛を得て何かが変わることではなく、誰かと出会い愛を知る喜びそのものであった。「それは、相手が人間でなくても成立するよね?」っていうところ、そこを違和感のないようにやってのけたギレルモ・デル・トロ監督の手腕。クリーチャーの造詣にしてもギリギリのラインではないかと思う。
相手をあるがままに受け入れるということ。その点で言えば、友人の信じるもの、求めるものをわが身のように受け入れたジャイルズも隠れた主人公だ(彼の描いた「ふたり」の絵は最高に素晴らしかった)。イライザもジャイルズもゼルダもそして「彼」も、確かにマイノリティかもしれない。しかし本作ではそういうカテゴライズやラベリングを超えて、水のように柔軟にありのままの相手を包み込んだ人間を描いた。一見強い力を持つマジョリティの方が物事に囚われていて不幸である。冷戦時代の米国を舞台とすることでその対比が如実に表れていると感じた。


2018年3月1日より全国公開

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