【FILMeX】氷の下(コンペティション)
【作品紹介】
中国北東部の街で警察へのタレコミを糧として生活を送るボー。ある時、強盗殺人事件が起こり、自分に嫌疑がかかることを恐れたボーはロシアに逃亡する。『人山人海』のツァイ・シャンジュンがホァン・ボーを主演に迎えたフィルム・ノワール。撮影はユー・リクウァイ。(東京フィルメックス公式サイトより)
【クロスレビュー】
藤澤貞彦/その男、氷点下23度:★★★☆☆
主人公の男の変貌ぶりが動物に例えられている。カラスから犬に。そして獰猛,危険,残酷、あるいは英雄、豪傑のシンボルたる動物へと。この映画を要約すれば、チンピラがギャングの情婦や、親分、警察とからんでいく中で、のし上がっていくという話である。描き方によっては、大変ドラマチックなものになるはずなのだが、すべてが最初から語られるのではなくて、徐々に事件の全貌が見えてくるという形になっている。そういう意味では、フィルム・ノワールの典型とも言える。しかしそこにカタルシスはない。その実、最後まで全貌が見えてこないからだ。凍り付いた風景、特にロシアのハバロフスクにおけるその映像の美しさは圧倒的だが、主人公の心も同じように凍り付いていて、それがギャングの情婦への異様な愛の形として現れる。この映画は愛に敗れた男が、金銭は勝ち取るという点で、現代中国へのアイロニーが入っている。「どこへ行っても同じこと」「ここは所詮中継地点」彼には、自分の落ち着ける場所というのが存在しないという点でも。
富田優子/寒々しい映像美は圧巻:★★★☆☆
本作の舞台はロシアのハバロフスク。雪に閉ざされたこの街は中国から流れてくる労働者も多く、異国の地で成功を目論む者で溢れているという。主人公の荒んだ心を投影しているかのような、寒々しいほどの映像美には息をのむ。鑑賞しているこちらも身体が冷えてくるのではないか、と錯覚してしまうほどだ。そして、主人公の心象だけではなく、中国における歪な経済状態が伝わってくる。率直に言ってしまうと、話の筋を頭で追おうとすると、よく理解できない点も多々あった。だが、映像をもって見る者に迫る力作と言って良い。
この歪な社会に流転の人生を送る男はどこへ辿り着くのだろう。男の消えたその先に何が待ち受けているのか。先行き不透明な社会を思い、苦い余韻を残す。
▼第18回東京フィルメックス▼
期間:2017年11月18日(土)〜11月26日(日)
場所:有楽町朝日ホール・TOHOシネマズ日劇
公式サイト: http://filmex.net/2017