こいのわ 婚活クルージング
なぜ結婚がしにくくなったのか。社長にして開発者である門脇の考案した電子機器に、そのヒントが隠されている。歩きスマホをしても、事前に危険を察知し、人との衝突を防ぐスマートフォンがそれだ。これなら外に出ていても、周囲を気にせずに、自分の世界の殻に閉じこもっていられる。それは同時に、ハプニングから生まれる恋も未然に防いでくれるという効果もあるに違いない。恋をしたいと思わない人たちにとっては。スマートフォンの中の小さなアイドルたちは、勝手にこちらが夢を見ているだけでいいのだから安全だが、現実の人間はそうはいかない。気は遣わなければならないし、衝突することもある。この電子機器は、単に物理的に衝突を防ぐということだけではなく、少しでも傷つきたくない、人との衝突をしたくない、殻に閉じこもっていたい人たちを増殖させる意味合いをも持っている。実際集団見合いに集まってきた人たちは、人と正面向かって座っていても、まるでスマートフォンに向かって呟いてでもいるかのように、一方的に自分のことを話すのみで、会話が成立しない者ばかりだったのである。そういう意味では、門脇のもうひとつの発明品、時計型嘘発見器も同じ発想から出てきている。コンピュータのようにイエスかノーか、それが自然にわかったら傷つかなくても済むのに、というところである。そういう意味では、これらは現代の結婚難民を象徴するものとなっている。
過去に目を向ければ、コンピュータがない昔だって、話が下手な人たちがいた。人前に出ることが苦手な人たちがいた。もしかしたらその割合は今以上だったかもしれない。それでも生涯未婚率は低かった。何が違うのか。それはお見合い結婚の比率である。かつては30%であったその比率は、現在では5%になっているという。なるほど、そこに目を付けたのが、「こいのわ」プロジェクトというわけだ。きっと、実際の現場でも劇中のボランティア宏美(藤田朋子)のような、おせっかいおばさんもいることだろう。こういう人こそが貴重なのである。
しかし、それだけでは問題は解決しない。究極的には、個人の問題意識にある。まずは、門脇の発明した電子機器を「いいな」と思うような感覚こそを捨て去らなければならないだろう。人と向き合い、真正面から会話し、人を理解できなければ、その先に幸せはない。でも恐れることはない。この作品を観れば、こうしたイベントに参加する機会はいくらでも作れるし、修学旅行みたいな感じで楽しんでいるうちに、何かを見つけることができると感じられるはずだからだ。