【FILMeX】馬を放つ(コンペティション)
【作品紹介】
キルギスの草原地帯の村。村人から“ケンタウロス”と呼ばれる男は古くからの伝説を信じ、夜な夜な馬を盗んでは野に放つが…。キルギスを代表する映画作家アクタン・アリム・クバトの最新作。ベルリン国際映画祭で上映され、国際アートシネマ連盟賞を受賞した。(東京フィルメックス公式サイトより)
【クロスレビュー】
藤澤貞彦/人馬一体度:★★★★☆
キルギスには、「馬は人の翼」という言葉が残っていることに伺えるとおり、元来馬とは切っても切り離せない関係にある。その中でも主人公はケンタウロスという名前が示すように、キルギスの伝説に捕らわれた男である。「昔は一族ですべてを分け合ってきたじゃないか」その嘆きが、彼を伝説へと向かわせる。馬を盗み、まるで自分が馬の翼にでもなったかのように両腕を開き草原を駆けめぐる姿が、月明りの中で、人馬一体のシルエットとなる。神話の世界のようで、誠に美しい。お金に飽かして高価な外国の馬を買い求める人々、お金目当てに食肉用の馬を外国に売買する人々、彼にはそれが許せない。民族の魂を売り渡しているようなものではないかと。キルギス人はソビエトに併合されてもなお、民族の伝統を守り続けてきた人々。その伝統が、グローバル化の時代で危機を迎えている。貧富の差による地域の分断。また、宗教のグローバル化による地域の分断。ケンタウロスの人柄のように決して声高ではないけれど、監督自身の危機感が、ジワジワとこちらの胸に響いてくる作品である。
折田侑駿/手放しに、大好き度:★★★★★
「馬は人間の翼である」というキルギスのことわざを信じる、ひとりの男の物語である。
人々が「神は偉大なり」と祈りを捧げる中、主人公の男は抜けだして隣接する映写室に入り、“馬を放つ” というとても印象的な場面がある。当然ながらここでは実際に馬を放つのではなく、フィルム缶に収められた“馬(と人の写真)を”、映写することで“放つ”のだ。その映像を嬉しそうに眺める男に、映像の中の馬に乗った男女も微笑む。もちろん、それぞれの馬に乗る男女が、駆けながら互いに微笑み合っているだけなのだが、切り返しの演出によって、主人公に微笑みかけているように見えるのだ。監督の、人間を信じ、自然を信じ、そして映画の力を信じようという想いに、気がつけば涙がボタボタ止まらなかった。
▼第18回東京フィルメックス▼
期間:2017年11月18日(土)〜11月26日(日)
場所:有楽町朝日ホール・TOHOシネマズ日劇
公式サイト: http://filmex.net/2017