【FILMeX】ファンさん(特別招待作品)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

【作品紹介】

本年のロカルノ映画祭で金豹賞を受賞したワン・ビンの最新作。アルツハイマー病で寝たきりになり、ほとんど表情にも変化が見られない老女と周囲の人々をとらえ続ける。一つの死の記録にとどまらず、見る者に様々な問題を投げかけてくる挑戦的な傑作である。(東京フィルメックス公式サイトより)

【クロスレビュー】

折田侑駿/“その瞬間”に生まれる感情は共有できない度:★★★★☆

アルツハイマーにより寝たきりの生活を余儀なくされた“ファンさん”と親族の姿を捉えたものであるが、その当の本人を前にして「精進落としはケチったらだめ」や「どこに埋めようか」などとくちにする人々には思わず閉口してしまう。距離の近さや、撮影者が同空間にいることからして、人々がカメラを意識しないことなど不可能だったように思う。どのくらい監督の作為的な意図があるのだろうか。しかし臨終の瞬間に訪れた親族の当然の変化には、圧倒的な他者である観客は追いつけない。それまで“ファンさん”の顔ばかりを捉え続けていた監督も、ここでは追いつけなかったのではないだろうか。

外山香織/観客の戸惑い度:★★★★★

アップで捉え続けられる、無表情なファンさんの顔。アルツハイマーという病のせいか、死に直面する恐さも何も感じていないようにも見える。しかし、娘か息子か、近しい人が目の前に現れた時、ファンさんの顔がぱっと明るくなり、懐かしいような嬉しいような視線を投げかけた。このとき、ああファンさんは周りが思っている程何も感じていないわけではなく、すべて見え、すべて聞こえ、すべて知っているのでは? と思えた(ゆえに親族が彼女のそばで葬儀の話などをしていると、さすがにやめた方がいいのではと思ってしまう)。最後の方は、ファンさんを直接映さず、取り囲む家族たちの背中を映すのみであった。フィクションではない、現実の「死」のタブーと、映画との関係。カメラはどこまで入って行けるのか。こうした我々観客の戸惑いをも含めて、ワン・ビン監督の「作品」は完結するのだと思う。



▼第18回東京フィルメックス▼
期間:2017年11月18日(土)〜11月26日(日)
場所:有楽町朝日ホール・TOHOシネマズ日劇
公式サイト: http://filmex.net/2017

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