【FILMeX】暗きは夜(コンペティション)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

【作品紹介】

路上での射殺という過激な麻薬撲滅運動が吹き荒れるフィリピン。麻薬取引に手を染めていた主婦サラは真っ当な仕事に就こうと努力する。そんな時、麻薬中毒の息子が失踪するが…。巨匠リノ・ブロッカの社会派作品を彷彿させるアドルフォ・アリックスJrの力作。(東京フィルメックス公式サイトより)

【クロスレビュー】

藤澤貞彦/フィリピンの闇の深さ度:★★★★☆

街にロドリゴ・ドゥテルテ大統領の「麻薬撲滅戦争」の演説が流され、警察が住民たちに脅しをかける。本作を作るにあたって監督は、大統領の施政方針演説を撮影する映像ディレクターにブリランテ・メンドーサ監督が選ばれたということを念頭に置いていたのだろうか。『ローサは密告された』にむしろ大統領が共感してしまっているという皮肉な事実を踏まえ、敢えてドゥテルテ大統領のお膝元、ダバオ市を舞台に選んでいるようにも思える。というのも、その場所で物語の中で大統領の施政方針演説を入れ込むことは、明確な大統領批判に繋がるはずだからである。大統領の演説が、かえって麻薬の密売人の元締めや、それとつるむ警察組織にとって、自分たちを守る後ろ盾になってしまっている。そんなことを露とも知らない貧しい住人たちは、ただただ怯え、身内の悲劇に声を上げられず、悲嘆に暮れるのみである。行方不明になった息子を探す親たちの歩く細い路地は、昼でも暗く、奥深い迷宮に繋がっているかのようで、そのことが、この問題の奥深い闇を体現しているかのようでさえあった。

折田侑駿/あまりにも救いがない度:★★★★☆

冒頭の楽しげな誕生パーティーに、突如響きなだれ込む、怒号と銃声。ここから一度たりとも人々は明るい声を上げたり、笑顔を見せたりはしない。次々と映し出されるのは、そこに蠢く生活と、人々の恐怖に歪んだ顔、泣き顔、怒りに震える顔に、助けを懇願する顔である。父母のひとり息子探しに延々とまとわりつく、暗く湿った暴力の気配。雑多なストリートに対して、窮屈なサイズの画面には、昼であっても、夜であっても、“暗き”印象しか残らないのだ。これがフィリピンの、あるリアルな姿だというのだから恐ろしい。そして、どこにも救いは見出せない。



▼第18回東京フィルメックス▼
期間:2017年11月18日(土)〜11月26日(日)
場所:有楽町朝日ホール・TOHOシネマズ日劇
公式サイト: http://filmex.net/2017

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