【FILMeX】とんぼの眼(コンペティション)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

【作品紹介】

尼僧になる修行をやめ、俗世間に戻った若い女性チンティン。やがて彼女を一方的に愛していた若者クーファンはインターネットの動画サイトで活躍するアイドルがチンティンなのではないかと思い始める……。中国の現代美術界の旗手、シュー・ビンの初監督作品。(東京フィルメックス公式サイトより)

【クロスレビュー】

富田優子/諸々のツッコミが頭をよぎる・・・:★★☆☆☆

中国では2015年から監視カメラの映像がネットで見られるということで、それらの映像を繋ぎ、音声を当て、ひとつのフィクションの物語を紡いだという、実験的な作品だ。ただ監視カメラに誰でもアクセスできるというのはプライバシーの侵害では?とか、映像の権利は誰にあるのか・・・?とか、そもそも本作を「映画」と呼んでいいのか・・・?などという諸々のツッコミが頭をよぎる。肖像権無視(?)がまかり通る中国だからこそなせる技なのか・・・という、モヤモヤ感を抱いたまま映画は終わってしまった。何とも賑々しい作品になっているのだが、ただ、ラストに響く寺院の鐘の音だけが本物ではないだろうか。それは過度な監視社会への、そしてリアルとフェイクのはざまで翻弄される世界への、まさに警鐘のように思えた。それがシュー・ビン監督の意図した点なのかが非常に気になる。

外山香織/膨大な監視画像に驚き度:★★★★★

ネットで見ることができる監視画像を繋ぎ合わせて作られた本作。脚本にあわせて撮影された映像は一つもないと言うから驚きである。主人公は、尼寺から俗世へ出たチンティン。彼女は「この世の中、心を変えるか、顔を変えるかだ。そうでないと私みたいな人間は苦労する」と考えるようになり、整形を決意する。顔も名前も変えてネットアイドルとして成功したかに見えたが、友人をも巻き込み事態は思わぬ方向へ……。結局は顔や表層を変えても本質は変わらない。「千の川が流れても、映る月はたった一つだ」と寺の僧がチンティンに放った言葉は的を得ている。翻って、監視画像は1枚1枚真実であったとしても、作り手が繋ぎ合わせればどんなフィクションにでもなることをこの作品は証明している。さらに監視者が画像をどう判断するかによって真実も曲げられる。扱うのが人間である以上、虚構と現実は表裏一体。本作は、それらに振り回される愚かしさを示唆しているのではないだろうか。



▼第18回東京フィルメックス▼
期間:2017年11月18日(土)〜11月26日(日)
場所:有楽町朝日ホール・TOHOシネマズ日劇
公式サイト: http://filmex.net/2017

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