『ポリーナ、私を踊る』ヴァレリー・ミュラー&アンジュラン・プレルジョカージュ監督

何かが成就されていくまでの過程は一つではなく、人によって様々な道がある。

――ポリーナの生き方がとても現代的に思えましたが、彼女の成長物語としての描き方の狙いはどうだったのでしょうか?

VM:ポリーナの軌跡はそう簡単なものではありませんでしたよね。困難もありましたし、性格も頑固です。そして彼女は自分の強さだけではなく、弱さも踏まえています。それでも障害を乗り越えて、好きなことを見つけて、ダンスを続けていく。その過程において、彼女が経験したことすべてが(バーでのアルバイト経験なども)役に立っている。何かが成就されていく過程は一つではなく、人によって様々な道があります。そんなことが伝われば嬉しいです。

――ポリーナは紆余曲折を経て自分自身の確固たる道を歩み始めますが、ポリーナ役のアナスタシア・シェフツォワさんは本作の出演を経てコレオグラファーになりたいと伺っております(※プレス資料および公式サイトに記載あり)。ポリーナの人生とアナスタシアさんの人生が重なるようで感慨を覚えるのですが、その点についてお二人はどのように思われますか?

AP:ある意味、ポリーナとアナスタシアが重なります。アナスタシアも優れたバレリーナで、僕たちの映画に出るためにロシアのバレエ学校を離れました。フランスでのロケなど、恐らく彼女がこれまで経験したことがないような出来事はたくさんあったと思います。確かに振付の仕事にインスパイアされたようなので、(僕は知らなかったのだけど)振付家になりたいと思ったのかもしれませんね。
でも彼女は本作の撮影後に、マリインスキー劇場に入団したんです。それと同時にロシア映画とフランス映画からのオファーが1本ずつあったと聞いています。それで僕の知る限りでは、マリインスキーは辞めるということでした。

――アナスタシアさんは新たな道を進んでいるということですね・・・。

AP:本当のところ、彼女はマリインスキーに在籍しつつ、女優業も両立させたかったらしいのですが、マリインスキーの厳格な規則の問題で難しかったようです。

――アナスタシアさんが女優として成功するかどうかは未知数かもしれませんが、彼女の人生において本作は転機になったでしょうね?

VM:彼女にとっても冒険でした。彼女はフランス語を話せなかったし、コンテンポラリーを踊ったこともありませんでした。彼女にとって大きなチャレンジであり、人生の分岐点になった作品になったのだと思います。

――南仏でポリーナを厳しく指導する、コンテンポラリーダンスの振付家役ジュリエット・ビノシュさんのダンスは本作のハイライトの一つだと思いました。大女優ジュリエットさんと新人女優アナスタシアさんとの現場はいかがでしたか?

VM:とても良い撮影現場でした。もちろん、心配していたところもありましたが、ジュリエットはとても努力してくれて、撮影前に10ヶ月の身体トレーニングを積んで参加してくれました。アナスタシアとのシーンでも、大先輩らしく彼女に話しかけたり、気遣いを見せてくれたりするなど、彼女をサポートしてくれました。

――ポリーナと恋に落ちるダンサー役のニールス・シュナイダーさんが美しくて魅力的ですが、彼の起用について教えてください。

VM:最初にニールスのカメラテストを行ったのですが、アナスタシアとのコンビネーションが本当にぴったりでした。彼しかいない!と決めました。

AP:僕の創作作品「Retour à Berratham」(15)でダンサーと俳優が出演する作品があったんです。なので、ニールスの本作の出演が決まった後、その作品の俳優の1人として彼に出てもらうことにしました。そこで僕との仕事も経験したし、プロのダンサーとともにレッスンやトレーニングを4か月ほど積んでくれました。その経験があったからこそ、ダンサー役を完璧にこなしてくれました。

<プロフィール>
ヴァレリー・ミュラー
芸術と映画の歴史を勉強しながら、助監督及びプロダクションアシスタントとして働き始める。その後、『Avant La Parade』(94)や『Portrait en Mouvement』(96)などのドキュメンタリーだけでなく、マリオン・コティヤール主演『La Surface de Réparation』(98)、『Cellule』(03)などのショートフィルムも制作。2009年にはフランソワ・ファヴラ とオリビエ・ソレルとともに『L’Identité』、2012年にはサルバトーレ・リスタと『Deluge』を共同執筆した。また、自身の制作会社であるリチウムフィルムとの共同プロデュースも多く、主な作品は、エヴァ・フッソン監督の『Tiny Dansers』(07)やアンジュラン・プレルジョカージュ監督の『La Dernière Pearle』(15)、オリヴィエ・アサイヤス監督のドキュメンタリー『Eldorado』(07)などがある。

アンジュラン・プレルジョカージュ
1957年1月19日、フランス・シュシー=アン=ブリ生まれ。フランスでアルバニア系の両親の元に生まれ、古典舞踊を専攻したあと、カリン・ヴィーヌールの元でコンテンポラリーダンスに転向。1980年にはニューヨークに移住し、ゼナ・ロメットとマース・カニングハムに師事する。その後、ドミニク・バゲのダンスカンパニーに入団し、自身のダンスカンパニーを1985年に設立。以降、ソロから大規模なアンサンブルまで、振り付けは49作品にも及ぶ。それらは、世界中のレパートリーともなっており、ニューヨーク・シティ・バレエ団やミラノスカラ座、そしてパリ・オペラ座バレエ団など、有名ダンスカンパニーからも委託されている。CMや映画作品でも振り付けを担当しており、これまでに数々の賞に輝く実績を持つ。さらに、フランス文化大臣はレジオン・ドヌール勲章シュヴァリエと共に彼をナイト爵、そして芸術文化勲章オフィシエと国家功労勲章オフィシエの名誉職位を授与。2014年にはSamuel H. Scripps/アメリカン・ダンス・フェスティバル功労賞も受賞した。2006年10月以降、プレルジョカージュ・バレエ団とメンバーはパヴィヨン・ノワールで創作活動しており、本作は自身初のフィクション映画である。


©2016 Everybody on Deck – TF1 Droits Audiovisuels – UCG Images – France 2 Cinema
10月28日(土)より ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷 ほか全国ロードショー

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