『ポリーナ、私を踊る』ヴァレリー・ミュラー&アンジュラン・プレルジョカージュ監督
大変恐縮ながらダンスの世界は筆者にとって門外漢だ。だが、登場人物たちのダンスシーンは素直に心打たれた。主演のポリーナ役アナスタシア・シェフツォワ(バレリーナでもあり、本作が映画デビュー)をはじめ、ジュリエット・ビノシュやニールス・シュナイダーら有名俳優たち、さらにパリ・オペラ座のエトワールだったジェレミー・ベランガールも吹き替えなしで踊っており、贅沢で圧巻だ。
本作の原作はフランスで絶大な人気を誇るグラフィックノベル「ポリーナ」。バレリーナを目指すロシア人の少女ポリーナ(アナスタシア)が、憧れの名門ボリショイ・バレエ団への入団を控えたある日、コンテンポラリーダンスと出会い、すべてを投げ打って、恋人(ニールス)と南フランスのコンテンポラリーダンスカンパニーへ行くことを決意。だが、新天地では彼女が思い描いていたような、順風満帆な未来が待っていたわけでなかった・・・。とかく人生とはままならぬもの、ポリーナの葛藤や苦悩は、誰もが共感することだろう。似たような感情は、生きていれば誰もが経験することだから。
そんな本作の監督は、ヴァレリー・ミュラーさんと、その夫、バレエダンサーでありコンテンポラリーダンスの振付家としても世界的に活躍するアンジュラン・プレルジョカージュさん。本作は夫婦として初のコラボ作品となったわけだが、共同監督をする経緯や俳優たちの起用等についてのインタビューを以下にお届けしたい。
――主人公のポリーナはボリショイ・バレエ団への入団を蹴って、フランスへ行ってしまいます。ボリショイは世界最高峰のバレエ団の一つですが、若いダンサーがロシア以外のバレエ団、例えばパリ・オペラ座を目指すということは多いのでしょうか?
ヴァレリー・ミュラー監督(以下VM):ポリーナの選択は典型的なものではないとは思いますが、彼女のような例は実際にはあります。アンジュランのダンスカンパニーにはボリショイ出身のダンサーもいます。つまり古典バレエ以外のダンスを経験したいということでコンテンポラリーダンスのカンパニーに来た人もいるんです。ただ本作のポリーナの人生は、ユニークな軌跡だと思います。それは1人の女性の自己解放の物語であり、映画らしいドラマツルギーに満ちた物語でもありますが、ある意味ユニバーサルなプロのダンサー、またはダンサーに限らず何かプロフェッショナルな人の軌跡を見せている作品でもあると思います。
アンジュラン・プレルジョカージュ監督(以下AP):パリ・オペラ座に関して言うと、いわゆるゲストのダンサーとして招かれるロシア人ダンサーはいますが、オペラ座に入団したいというロシアの人はあまりいません。オペラ座は付属のバレエ学校からダンサーをリクルートしてくることが多いんです。
――ご夫婦であるお二人ですが、お二人で何か映画を撮りたいということで題材を探していたら本作の原作を見つけたのか、もしくは原作ありきでこれをお二人で映画にしようと思われたのでしょうか?
VM:まず私がアンジュランをテーマにした、フランスのテレビ用のダンスのドキュメンタリーをつくっていました。そのドキュメンタリーを撮り終えた後、今度はダンスを主題にした長編フィクションを撮りたいという話をしていたんです。他方、この映画のプロデューサーが原作の映画化権を買い、アンジュランに協力のオファーをしてきたのです。そんなわけで彼が「それだったら一緒にやろう」と言ってくれたのが、共同監督をすることとなった経緯です。
AP:原作者のバスティアン・ヴィヴェスはこのグラフィックノベルを描くためにダンスについていろいろと調べていたらしいのですが、リサーチの一環として僕の作品を見に来ていたんです。実は、原作のなかに、私の作品を元としたコマ(絵)があるんですよ。僕のダンスがあり、それが漫画になって、さらにそれが映画になるという、何というか物事の歯車が上手く噛み合ったような、何かがぐるぐると回ってくれたような感じでしたね。
――日本ではスポ根ものと言いますか、スポーツを扱った漫画は多いのですが、フランスではどうでしょうか?
AP:バスティアンはフランスでかなり有名な人です。ただ、「ポリーナ」のようなバレエを扱った漫画は恐らく初めてというくらいだと思います。テーマのカテゴリー分けができるほど、多くはないと思います。